不明だったマスト細胞の増加メカニズム
東京大学は7月14日、同大学院農学生命化学研究科の村田幸久准教授、中村達朗特任助教らの研究グループが、食物アレルギーを発症させたマウスを用いて、マスト細胞が大量に産生するプロスタグランジンD2(PGD2)と呼ばれる生理活性物質に、マスト細胞自身の数の増加を抑える働きがあることを発見したと発表した。なお、同成果は科学専門誌「Nature Communications」に7月10日付で掲載されている。
画像はリリースより
食物アレルギーは特に子どもに多く発症し、その症状はかゆみやじんましん、おう吐、下痢などの他、最悪の場合ショックを起こして死に至るケースもある。日本では約120万人の患者がいるとされ、その数は上昇の一途をたどっている。現在、発症原因の解明や治療方法の開発が遅れており、食べたいものを食べられない子ども、そしてその家族の負担は非常に大きい。
これまでの研究から、アレルギー反応の原因となるマスト細胞の腸における数の増加が、食物アレルギーの発症や進行に関与することが示唆されていた。しかし、どのようにしてマスト細胞が増加するのか、そのメカニズムは不明であった。
PGD2にマスト細胞自身の数の増加を抑える働き
PGD2は細胞膜の脂質成分を、PGD2合成酵素が代謝することで産生される生理活性物質。食物アレルギー関与するとされるマスト細胞は、炎症を引き起こすヒスタミンやセロトニンといった生理活性物質とともに、PGD2合成酵素を強く発現しており、大量のPGD2を産生していることが報告されていた。
そこで研究グループは、PGD2合成酵素の遺伝子欠損マウスを用いて、PGD2が食物アレルギーにおけるマスト細胞の数や活性、症状発現に与える影響を調査。その結果、マスト細胞が産生するPGD2に、マスト細胞自身の数の増加を抑える働きがあることを発見したという。
この研究結果により、マウスの食物アレルギーモデルを用いて、マスト細胞が産生するPGD2が、SDF-1αやMMP-9といったマスト細胞の浸潤を促進する分子の発現を抑えることで、食物抗原に反応したマスト細胞自身の増加をおさえて症状の悪化を防ぐ作用を持つことが初めて示された。
この物質のもつ作用を利用して、マスト細胞の数を減らすことができれば、食物アレルギーに対する新しい根本的な治療方法の開発に繋がる可能性がある。同グループは今後、PGD2がどのようにマスト細胞の細胞内へ情報を伝達し、その浸潤を抑制するのか、その機序のさらなる解析を進める予定としている。
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・東京大学大学院農学生命科学研究科 プレスリリース