薬剤耐性菌に対抗できる新たな分子機構の化合物発見を目指す
北海道大学は7月9日、重合化するタンパク質に作用する化合物の新たな評価方法の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院先端生命科学研究院の三國新太郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は「PLOS ONE」に7月8日付けで掲載されている。
画像はリリースより
感染症の原因となる細菌の増殖を抑える抗菌薬は、医療の場面では欠かせない薬のひとつとなっている。しかし、抗菌薬は同時に「耐性菌」の発生による問題を生んでいる。この耐性菌に対抗すべく、新しい抗菌薬が作り出されるものの、すぐにその耐性菌が生まれてしまう。よって、これまでの抗菌薬の作用とは異なる分子機構で細菌の増殖を抑える化合物を見つけ出すことが重要とされてきた。
神経変性疾患の新規治療薬を発見する手法としても期待
研究グループは、細菌の分裂に必須なタンパク質である「FtsZタンパク質」に注目。このFtsZタンパク質の二量体化を阻害する化合物が、新しい抗菌薬の「種」になると考えた。同研究グループは、FtsZタンパク質の重合阻害化合物を見つけるために、コンピューターシミュレーションによるバーチャルスクリーニングと蛍光相互相関分光法(FCCS)を用いた化合物スクリーニング法を確立した。
FCCSとは、2色の蛍光を観察することで、分子の動きや分子間相互作用を定量化できる蛍光イメージング手法の1つ。この手法により、約21万種類の化合物ライブラリーの中から、FtsZタンパク質の重合阻害化合物の候補を71種類まで絞り込むことに成功。そしてそのうち、特にタンパク質の活性阻害を示した6つの化合物を調べたところ、実際に1種類の化合物が黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を有することが確認されたという。
今回見つかった化合物はあくまで新しい抗菌薬の「種」であり、実際の薬として用いるにはさらなる研究開発が必要だ。しかし、多剤耐性菌に対して反撃の糸口となる化合物であると期待される。
また、同研究グループが開発した方法は、これまで定量的なスクリーニングが難しかった「多量体を形成するタンパク質」に対して応用可能とされる。すなわち、神経細胞内で発生するタンパク質の凝集体(多量体)が原因で生じる神経変性疾患、たとえばアルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新規治療薬の発見にも役立つと期待が寄せられている。
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・北海道大学 プレスリリース