臓器の複雑な内部構造が見えやすい臓器立体模型の作製手法を開発
筑波大学と大日本印刷株式会社(DNP)は7月9日、従来よりも安価に、血管などの内部構造が視認しやすい臓器立体模型を3Dプリンターで作製する手法を共同開発したと発表した。この研究は、同大学医学医療系の大河内信弘教授、大城幸雄講師、およびシステム情報系の三谷純教授と、DNPによるもの。研究成果は、7月15~17日に静岡県浜松市で開催される「第70回日本消化器 外科学会総会」で発表される予定。また、臓器立体模型の作製手法については、特許出願中だという。
画像はリリースより
手術のシミュレーションや練習、治療の計画などを立てる手術プランニングに、3Dプリンターで作製した患者一人ひとりの臓器立体模型が活用されている。既に頭蓋骨や顎の一部の手術では、実物大の模型の利用が保険適用になっているが、従来の3Dプリンターで使用する材料の樹脂は高価で、実質臓器(肝臓、膵臓など)の立体模型ひとつの作製に数万~数十万円かかるため、臨床分野への展開は困難だった。
さらに、従来の模型は、内部の血管などの構造物を不透明またはカラーの樹脂で、実質部を透明な樹脂で作製しており、透明樹脂は模型の形状によって光の屈折などの影響を受けるため、内部がゆがんで見え、血管などの臓器の内部構造の視認性が低いという課題があった。
臓器立体模型の臨床現場での活用を促進
筑波大学は、医学医療系とシステム情報系との連携により、3Dやバーチャルリアリティの技術を利用した手術のシミュレーションシステムの研究開発に取り組んでおり、外科医のトレーニングや術前の手順確認などへの活用を進めている。今回、多様な分野で3Dプリンターを活用したビジネスを展開するDNPとともに、双方の知見を応用し、従来よりも安価で、内部構造が視認しやすい実質臓器の立体模型を作製する手法を開発。肝臓の3Dプリントモデルの作製に成功した。同大学が3次元データを作成し、DNPが3Dプリンター用データへの補正と出力条件の設定を行ったという。
同研究で開発した手法により作製された臓器立体模型は、内部のほとんどを空洞にしているため、樹脂材料の使用量が削減され、従来の約3分の1の価格が可能となった。低コスト化は、定期的な臨床での運用を促進するとして期待されている。また、内部の状態が見やすいため、血管が複雑に入り組んだ箇所でも確認しやすく、手術チームのイメージ共有や術式のプランニング、術前シミュレーション、手術中の確認作業などの効果を高めるという特徴がある。
今回開発した臓器立体模型は、患者への病状説明や手術にあたってのインフォームドコンセント取得時の説明にも有用とされる。また、今後はすい臓など他の臓器への展開も進め、2016年度までの実用化を目指すとともに、外科医のトレーニングや臨床現場への応用展開を進めていきたいとしている。
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