吹田研究などからみる疾患リスクについての総説
国立循環器病研究センターは7月9日、高血圧がおよぼす疾患リスクについての疫学的総説を発表した。この研究は、同センター予防健診部の小久保喜弘医長と、高血圧・腎臓科の岩嶋義雄医長らによるもの。研究成果は、米国心臓学会の高血圧専門誌「Hypertension」の8月号に同日付で掲載された。
高血圧が、脳卒中、虚血性心疾患において重要な危険因子となることは、これまでさまざまな疫学・臨床研究でも示されてきていた。さらに、近年、高血圧には今まで示されてきた循環器病領域を超えた疾患リスクでもあることが分かってきたという。そこで研究グループは、日本の都心部地域住民を対象としたコホート研究である「吹田研究」などから、同疾患リスクについての総説をまとめた。
脳卒中や虚血性心疾患に留まらない、さまざまなリスク
吹田研究で判明した高血圧が関連してくる疾患リスクとしては、心房細動の罹病、腎機能の低下などが認められている。腎機能低下の促進は、脳卒中、心臓病それぞれのリスクを高めることが認められた。また慢性腎臓病で、かつ高血圧である場合、循環器疾患に対するリスクが相乗的に高くなるという。さらに、口腔衛生状態の問題を示す4項目(歯周病、不正咬合、歯牙喪失、歯肉出血)のうち3項目以上該当する人は、高血圧になりやすいという傾向が認められている。
欧米の大規模コホート研究においては、がん発症及び死亡リスクとなることが分かった。特に、高血圧が、腎がん、食道がん、膵がんなどの危険因子であることが認められている。
高血圧と認知症のリスクおよび骨粗しょう症との関係は、明確にはなっていない。高血圧には認知症、特に血管性認知症のリスクがある点は認められているが、アルツハイマー病のリスクであるという関連性は認めらないという。骨粗しょう症については、高血圧治療薬(特にサイアザイド系利尿薬)が、骨密度を維持する重要かつ有効な手段であるとされる。
これらの報告により、高血圧には循環器病以外にも、さまざまな疾患との関連性が示唆されていることがわかってきた。高血圧の予防や加療を行うことは、循環器病の予防・治療のみならず、多岐に渡る疾患の予防にも関与し、健康寿命延伸において重要であると考えられる。今後、これらの疾患の発症や予防に関する新たな研究結果に期待が寄せられている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース