治療抵抗性乳がんを対象とした世界初の第1相医師主導治験
国立がん研究センターは7月7日、同センター研究所が発見した乳がんの治療抵抗性に関わるRibophorin II(RPN2)遺伝子の発現を抑制する核酸医薬製剤「TDM-812」を株式会社スリー・ディー・マトリックスと共同開発し、世界で初めて人へ投与するファースト・イン・ヒューマン試験となる第1相医師主導治験を同中央病院で開始、被験者へ投与したと発表した。
画像はリリースより
乳がんは、日本人女性のがん罹患の中でも最も多いがんであり、今後さらに急増するものと推測されている。転移や再発を起こした乳がんに対しては、病気の進行を抑えることを目的として、内分泌療法や、抗がん剤などの薬物療法が用いられているが、乳がんの局所腫瘤は、疼痛・出血・悪臭・浸出液などを伴い、患者のQOLを著しく低下させることがある。乳がんの局所腫瘤は、治療抵抗性であることが多く、新規治療の開発が求められていた。
同センター発見のシーズで核酸医薬を製剤化
同治験で標的とするRPN2遺伝子は、同研究所分子細胞治療研究分野が2008年に乳がんの治療抵抗性にかかわる分子として発見し、専門誌「Nature Medicine」に発表している。乳がん細胞などでRPN2遺伝子が強く働くと、乳がん細胞は抗がん剤を細胞外に排出することにより抗がん剤耐性を獲得。応用研究の過程で、RNA干渉という技術を用いて、RPN2遺伝子の発現を減らす働きをするsiRNA(RPN2siRNA)をがん細胞に導入することで、乳がん細胞の抗がん剤耐性の性質や増殖が抑えられることがわかっていた。
今回使用する核酸医薬は、異常な遺伝子の働きに対し、それを抑制するように作用するため副作用も少なく、病気の原因を根本的に治療することが期待できる新しい医薬品。これまで、安定化と薬物送達が課題とされ、がんの治療薬として承認されているものはまだ存在しない。今回開発した核酸医薬製剤ではその課題を解決し、大型動物を用いた非臨床試験で有効性を確認。同治験により、世界初の核酸医薬による乳がん治療薬の承認を目指すという。
今回の治験薬は、同センターで発見されたシーズを国内企業との連携で製剤化したもの。乳がんの臨床試験として行うことは国内初となる。6月30日に、治験の1人目として、鎖骨下リンパ節転移を有するトリプルネガティブ乳がん患者への投与を開始している。
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・国立がん研究センター プレスリリース