不明だった記憶障害を引き起こす部位の位置や障害程度
順天堂大学は7月1日、脳の領域が損傷を受けた際に示す記憶障害の程度を予測する方法を開発し、その実証に成功したことを発表した。この研究は、同大学医学部生理学第一講座の長田貴宏助教らのグループによるもの。研究成果は、科学雑誌「PLOS Biology」電子版に6月30日付けで掲載されている。
画像はリリースより
記憶や思考などに関与している前頭前野のなかでも、記憶課題遂行中には前頭前野の複数の部位が活動することが知られている。しかし、前頭前野損傷患者における症例報告によると、これらの部位の損傷のすべてが記憶に障害を起こすわけではなかったという。そのため、なぜ特定の前頭前野の部位の損傷が記憶障害を引き起こすのかはわかっておらず、また損傷で記憶障害を引き起こす部位の位置やその障害の程度についても、予測する方法は確立されていなかった。
近年、脳領域間のネットワークに着目し、損傷時の障害を説明しようとする試みがなされてきたが、前頭前野損傷による記憶障害について、詳細な説明はされていなかったという。
脳損傷や脳外科手術における後遺症の予測へ
研究グループは、記憶課題遂行中のサルの脳活動を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI法)を用いて測定し、記憶想起の際に活動している脳領域間のネットワークを同定。さらに、このネットワーク内の前頭葉の領域が損傷を受けた際に示す記憶障害の程度を予測する方法を開発し、過去の知見を説明することに成功したという。さらに、損傷時に記憶障害を示す部位は、課題遂行時に働く大脳ネットワークにおける中心的な役割を果たしているハブであることもわかった。
今回の研究成果は、記憶想起に関わる大脳ネットワークの作動原理の解明につながるとしている。さらに、同研究で開発された手法を用いることにより、脳損傷や脳外科手術における後遺症の程度を事前に予想することが可能になると考えられる。この予測情報を利用することで、記憶想起に影響を受ける部位を手術において避ける指針になり、またリハビリの方針を最適化するのに役立てられることが期待される。
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