DNA損傷を感知して、修復タンパク質を集積させる「DNA修復機構」
北海道大学は6月24日、ゲノムDNAの修復を制御する分子「TRIM29タンパク質」の機能を解明する研究結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科生化学講座の畠山鎮次教授らによるもの。研究結果は、「Nature Communications」誌に6月22日付けで掲載されている。
画像はリリースより
真核生物が生命活動を正常に行うためには、ゲノムDNAを安定に維持することが非常に重要とされている。しかし、地球上の生物は宇宙線や食品などから日常的に微量の放射線を受けており、このような外的及び内的要因によって、DNAは日常的に損傷しているとされる。
生物はゲノムの安定性を維持するため、DNA損傷を迅速に感知して、損傷した部位にDNA修復タンパク質を集積させる「DNA修復機構」を有していることが知られている。
今回、研究グループは、DNAが損傷した部位にDNAを修復するタンパク質を集める働きをする新しい分子として、TRIM29タンパク質を発見。このTRIM29タンパク質に結合しているタンパク質を細胞から生化学的に抽出し、どのようなタンパク質と協力して損傷を受けたDNAを修復するかについて、質量分析によって網羅的な解析を実施した。
毛細血管拡張性運動失調症やがんなどの腫瘍性疾患にも関与
解析の結果、結合タンパク質として、DNAの制御に関係する分子が多く同定されたため、実際にどのように結合しているのかを検討。さらに、TRIM29の発現を人工的に減少させると、その細胞でのDNA修復にどのような影響がもたらされるかを調べたところ、放射線によるDNA障害に対して、死にやすくなってしまうことが判明した。これらのことから、放射線などによって起きるDNA損傷を修復するために TRIM29 が重要であることが分かったという。
これまでに、TRIM29タンパク質は、がんを高い確率で発生させる毛細血管拡張性運動失調症という病気との関連が報告されている。同疾患において、DNA修復に関連するATMという遺伝子が異常になっていることが判明しており、TRIM29はその異常を補う作用があると報告されていた。つまりTRIM29は、ATM遺伝子異常によってがんなどが起きるのを防ぐ働きをしていると推測されるという。
さらにTRIM29は、さまざまながんや白血病などの腫瘍性疾患に関与することが予想されている。同研究結果は、がんにおける遺伝子変異メカニズムの解明をはじめ、臨床医学における診断や治療への貢献につながるとして期待が寄せられている。
▼外部リンク
・北海道大学 ニュースリリース