70歳以上の高齢者の10~20%で検出される前白血病性幹細胞
自治医科大学は6月19日、白血病の初期に関与する遺伝子を発見したと発表した。この研究は、同大学幹細胞制御研究部の和田妙子助教らによるもの。研究成果は、米国血液学会機関誌「BLOOD」に、6月12日付けで掲載されている。
ある種のエピジェネティク変異により自己複製が亢進しているものの、分化能は保たれている造血幹細胞を「前白血病性幹細胞」と呼ぶ。近年の報告では、70歳以上の高齢者の10~20%にこの細胞が検出されるとされ、白血病や造血障害の早期発見や発症予防の観点から注目されていた。
LSD1がT-LBLの前白血病性幹細胞の形成に関与
今回、研究グループは、ヒストン脱メチル化酵素LSD1がTリンパ芽球性白血病リンパ腫(T-LBL)の前白血病性幹細胞の形成に関与していることを、発生工学的手法を用いて証明した。
LSD1は、これまでにも悪性腫瘍での強発現や特異的阻害剤による白血病分化誘導などが報告されていたが、その具体的メカニズムは未解明な点が多かった。同研究グループは、正常造血細胞と白血病細胞におけるLSD1発現をスクリーニング。その結果、造血幹細胞・前駆細胞ではきわめて低レベルに抑制されているが、白血病細胞、とくにT-LBLにおいて強発現していることを見いだしたという。
さらに、造血幹細胞特異的にLSD1を強発現するトランスジェニック・マウスを作製したところ、造血幹細胞の自己複製亢進が認められたが、分化能は正常に保たれていることが分かった。そこで放射線照射を行ってみると、LSD1トランスジェニック・マウスは対照群に比べ高率かつ早期にT-LBLを発症したという。造血前駆細胞のトランスクリプトーム解析を行うと、HoxAファミリーの発現が非常に高く、自己複製亢進の原因と考えられるとしている。
これらの結果から、LSD1強発現は、白血病発症の1次的遺伝子異常(1st hit)として前白血病性幹細胞の形成に関与しており、そこに付加的変異(2nd hit)が加わると急性白血病が発症すると考えられるという。今回の発見は前白血病性幹細胞の原因の一端を明らかにしたもので、造血器腫瘍の早期発見や発症予防への応用が期待される。
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・自治医科大学 研究情報