PG経路がどのように大腸がんの発生・進展を引き起こすかを検討
京都大学と科学技術振興機構(JST)は6月22日、大腸炎に伴い大腸がんを発症するマウスモデルを用いて、腸がん形成進展を促進する大腸での炎症反応がPGE2-EP2経路により制御されていることと、EP2を阻害することが大腸がんの治療戦略となりえることを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科・次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点(AKプロジェクト)の青木友浩特定准教授、成宮周特任教授らの研究グループによるもの。
画像はリリースより
大腸がんの発生・進展には炎症が関係しており、古くからアスピリンなど非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用が大腸がんの罹患リスクを低下させることが知られている。しかし、NSAIDsは胃腸管障害などの副作用があり、予防のための投与に慎重を要する。また、これに代わるものとして開発されたCOX-2阻害薬も心血管障害を副作用として来し得るため、その使用には制限がある。
NSAIDs、COX-2阻害薬は、いずれも生理活性脂質である一連のプロスタグランジン(PG)の合成を阻害して効果を発揮する。このことは、PG経路が大腸がんの発生・進展に関与していることを示しているが、その機序、とくにPGがどのように大腸での炎症に関与してがんの発生・進展に関係するかは不明だった。
EP2を阻害することが大腸がんの治療戦略に
研究グループはまず、各種PGのそれぞれの受容体を欠損した遺伝子改変マウスを、「大腸炎に伴い大腸がんを発症するモデル」に適用して検討し、炎症性大腸がんの形成に寄与するPG受容体として、PGの一種であるPGE2の受容体の1つEP2を同定した。
続いて、がん組織内のEP2発現細胞を検討し、腸組織内に浸潤する主要な炎症細胞である好中球と、腫瘍細胞を取り囲むように存在している線維芽細胞(腫瘍関連線維芽細胞)がEP2を発現していること、この2つの細胞種でPGE2-EP2経路は周囲の細胞に刺激を与えるさまざまなサイトカイン・ケモカインや細胞の増殖を助ける成長因子の発現を増加させることにより大腸がん形成を促進すること、これら細胞は自らPGを産生してこの経路をさらに増幅していることを明らかにしたという。
また、ヒト潰瘍性大腸炎に由来する大腸がん病理組織標本でもEP2が浸潤好中球や腫瘍関連線維芽細胞で発現していることを見出し、モデルマウスでの結果がヒトの病態へ応用できる可能性を示した。さらに、選択的EP2阻害薬をモデルマウスに投与し、これが用量依存的に大腸での炎症とがん形成を抑制できることも明らかにしたという。
この結果から、現在使用されているNSAIDsやCOX-2阻害薬を超えた、副作用の少なく、より安全な新規の大腸がんの予防・進展抑制薬が、EP2を標的分子とすることにより開発できると期待される。
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・科学技術振興機構 プレスリリース