世界初、ヘテロ中員環分子の鏡像異性体を効率的に合成
九州大学は6月17日、新型のキラル分子であるヘテロ中員環分子の一方の鏡像異性体を効率的に合成することに世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同大学先導物質化学研究所の友岡克彦教授、井川和宣助教、阿野勇介特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版に6月8日付けで公開されている。
画像はリリースより
分子の中には、右手と左手のように鏡像体の関係にある異性体(鏡像異性体)を有するキラル分子が数多く存在する。その多くは分子内に不斉炭素原子(4 種類の異なる原子や原子団が結合した炭素原子)を有しているという。これに対して、研究グループでは先に、不斉炭素原子を持たないヘテロ中員環分子1が、その特異な分子構造に起因した面不斉によってキラル分子となることを発見し、その基礎・応用研究を行ってきていた。
ヘテロ中員環分子1は、さまざまなキラル医薬品やキラル機能性材料の合成素子としての応用が期待されているが、1の一方の鏡像異性体のみを選択的に合成すること、すなわち不斉合成法が未開拓であったことがその研究発展 の大きな障害となっていたという。
医薬品や機能性材料の合成への応用に期待
ヘテロ中員環分子1は、鎖状分子2を両端でつなげて環を巻かせることで合成できる。しかし、環を巻く向きを制御しなければ、得られる1は(R)体と(S)体、両鏡像異性体の50:50混合物になるという。これに対して今回の研究では、鎖状分子2の環化反応を不斉配位子の存在下、辻-トロスト反応というパラジウム触媒反応によって行うことで環を巻く向きを制御。ヘテロ中員環分子1の一方の鏡像異性体を高い選択性で得ることに成功した。この合成法では、パラジウム触媒や不斉配位子は微量しか必要とせず、光学活性なヘテロ中員環分子1を極めて効率的に合成することができるという。
同研究によって得られたこのキラル分子1およびその類縁体は、新しいキラルテクノロジーの鍵となる分子として注目されている。今回開発された合成法により、それらキラル分子が光学活性体として潤沢に合成されることで、キラル医薬品やキラル材料の開発研究への応用が進展すると期待が寄せられている。
▼外部リンク
・九州大学 プレスリリース