血糖降下薬による低血糖脳症が、重度の脳障害や認知症の原因に
新潟大学は6月18日、糖尿病の治療薬リスクである低血糖脳症に対し、治療法を解明する上での新たな動物モデルを作成し、そのモデルを用いアルデヒドを治療標的とし、それらを抑制する治療薬を発見したと発表した。この研究は、同大学脳研究所神経内科の下畑享良准教授を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に同日付で掲載されている。
画像はリリースより
糖尿病の治療では、インスリン注射や内服の血糖降下薬を用いるが、これらが効きすぎると低血糖の状態になり、とくに血糖値が20mg/dl以下になると重篤な「低血糖脳症」を引き起こす。近年、この低血糖脳症が増加して大きな問題になっているが、その理由として、糖尿病患者自体の増加、そして糖尿病患者の高齢化や一人暮らしにより、低血糖の症状に気が付かず、治療を受けずに重症化するケースの増加が挙げられる。糖は脳にとって唯一のエネルギー源であるため、低血糖脳症は脳に深刻なダメージ(意識障害、運動麻痺、認知症)をもたらしてしまう。現在はブドウ糖の注射を除くと、低血糖脳症から脳を守る治療薬は一切なく、治療薬開発が望まれているが、その開発を可能とする良い動物モデルがないという問題があった。
アルデヒド分解酵素刺激薬に、低血糖脳症患者の予後を改善する可能性
研究グループは2010年から、動物モデルの開発を開始。それまでの動物モデルは、低血糖による脳のダメージにより呼吸が停止するため人工呼吸器を使用していたが、非常に難易度が高く、治療薬開発の障壁となっていた。これに対し今回は、脳波をモニターしながら脳の障害をチェックする方法を用いて、人工呼吸器を使用せずに済む動物モデルを確立。さらにこのモデルを用いて、低血糖の治療として行うブドウ糖注射のあとに、脳内にアルデヒドのひとつの4HNEという物質が蓄積し、神経細胞を傷害すること、そしてその障害の程度は低血糖の時間が長いほど高度になることを見出したという。
このアルデヒドが神経細胞障害の原因となる可能性を考え、アルデヒドを分解する酵素を刺激する薬剤をブドウ糖と一緒に注射したところ、脳内のアルデヒドが減少し、さらに神経細胞の障害も抑制された。以上より、脳内のアルデヒド4HNEは低血糖脳症の治療標的であること、アルデヒドの分解酵素を刺激する薬剤(ALDH2 アゴニスト)は低血糖脳症の治療薬として有望であることが判明したという。
研究グループは今後、今回開発した動物モデルを用いて、さらに低血糖脳症の治療薬候補の同定を進め、低血糖脳症の患者に対する治療の実用化を目指すとしている。
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・新潟大学 研究トピックス