MRI造影剤および中性子増感分子として機能するナノマシンの開発
放射線医学総合研究所(NIRS)は6月5日、がん組織に選択的に集積して、MRI造影剤および中性子増感分子として機能するナノマシンの開発を発表した。これは、東京大学大学院工学系研究科/医学系研究科の片岡一則教授、東京工業大学資源化学研究所の西山伸宏教授、ナノ医療イノベーションセンターMI PENG主任研究員、NIRS分子イメージング研究センターの青木伊知男チームリーダーらの研究チームによるもの。研究成果は、米国化学会発行のナノテクノロジー専門誌「ACS Nano」に6月1日付けでオンライン掲載されている。
画像はリリースより
外科手術は、がん治療における第一選択肢だが、侵襲性が高く、患部の取りこぼしによる再発の可能性も否定できない。加えて、一般的な開腹手術によってかかる患者への肉体的・経済的負担も大きな問題となっていた。
一方、生体にとって安全な光、超音波、熱中性子線を患部にピンポイントで照射し、そこで特定の化合物を活性化することによってがん細胞を死滅させる治療は、患者に負担の少ない低侵襲治療法として大きな注目を集めている。
がんの診断と中性子捕捉治療を同時に実現
ケミカルサージェリー(切らない手術)のなかで、近年、中性子捕捉治療が注目を集めている。中性子捕捉治療では、生体に安全な熱中性子線との核反応によって細胞傷害性の放射線を出す化合物として、ホウ素やガドリニウムなどが利用される。しかしながら、この治療法では、中性子増感分子としてがん細胞にホウ素を取り込ませるが、それをがん細胞に対してより高い選択性で送達する有効な技術が開発されていなかったという。
今回、研究グループが開発したナノマシンは、がん組織に選択的に集積することによって固形がんを選択的に造影できる。さらに、このナノマシンによって、MRIによるがんのイメージングが容易となり、生体に安全な熱中性子線の照射によってがん組織をピンポイントで治療できることが実証されたという。
同研究グループは、このナノマシン治療が、取りこぼしの無い確実ながん治療へと繋がるものとして、ケミカルサージェリーの実現、入院不要の日帰り治療の実現に期待を寄せている。
▼外部リンク
・放射線医学総合研究所 プレスリリース