遺伝的改変について生命倫理上の問題を懸念
北海道大学は6月15日、哺乳類生殖細胞系のゲノム編集について、研究報告を分析した上で、生殖補助医療の関連技術と比較しつつ、想定される研究目的と生命倫理の観点からの是非を考察した結果を発表した。この研究は、同大学安全衛生本部の石井哲也氏らによるもの。研究成果は、先端医療専門誌「Trends in Molecular Medicine Volume 21, Issue 8, 2015」に6月12日付けで発表された。
画像はリリースより
近年世界的に普及したゲノム編集技術は、標的遺伝子の高効率改変を可能とした。しかしその一方で、ヒト受精卵のゲノム編集論文が発表されると、将来世代に及ぼす健康被害や医療目的外への濫用の懸念が世界的に生じている。研究グループは、生殖細胞系の遺伝的改変を行う医療の是非の議論に先立って、研究動向、現行規制、関連事例をふまえた上での生命倫理上の論点提示が重要となると考えていた。
重篤な遺伝子疾患の遺伝予防を目的とするゲノム編集に一定の正当性
同研究グループは2014年、ヒト生殖細胞系ゲノム編集研究を想定して関連規制上の課題を見出した。今回、哺乳類におけるゲノム編集研究を詳細に分析したところ、受精卵、精子幹細胞、卵子を対象として、マウスのほかに中~大型動物を用いた遺伝的改変が行われており、近い将来には臨床応用水準に到達すると推定したという。
また、ヒト受精卵作製を伴う研究規制を確認するため、世界39か国の生殖細胞系遺伝的改変の医療利用に関する規制を分析。すると、禁止している29か国のうち、日本は生殖細胞系の遺伝的改変を法ではなく、指針で禁じている少数派の4か国のうちの1つであることが示されたという。
さらには、生殖細胞系ゲノム編集研究の正当性について、哺乳類生殖細胞系のゲノム編集についての研究報告を分析した上で、生殖補助医療の関連技術などと比較しつつ、想定される研究目的と生命倫理の観点からの是非を考察した。
これらの分析の結果、疾患の遺伝予防を目的とする着床前診断などを含め、重篤な遺伝子疾患の子への遺伝予防を目的としたゲノム編集研究に一定の正当性は認められたという。しかしながら今後も、受精卵の倫理的地位の見方、出生子の尊厳の確保を重要な論点として、ゲノム編集の広範な議論を開始すべきだと研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース