総務省消防庁の全国院外心停止調査を用いて解析
京都大学は6月11日、市民による胸骨圧迫(心臓マッサージ)のみの心肺蘇生の普及が、日本の院外心停止後生存者数増加に寄与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学環境安全保健機構の石見拓教授と川村孝教授、大阪大学医学系研究科の北村哲久助教、東京女子医科大学の清原康介助教らのグループによるもの。研究成果は、「Circulation」誌に6月5日付でオンライン掲載されている。
画像はリリースより
院外心停止後の患者に対する最良の心肺蘇生は何かということが、2000年以降激しい論争になっている。しかし、これまでの研究は個人単位の比較に焦点をあてたものがほとんどで、市民による胸骨圧迫のみの心肺蘇生の「普及」が、どの程度院外心停止患者の生存者数を増加するのかはほとんど知られていなかった。
そこで研究グループは、総務省消防庁全国ウツタイン記録から、救急隊に蘇生された院外心停止患者の2005年1月から2012年12月まで8年間のデータを使用し、院外心停止後の生存について、市民による胸骨圧迫のみの心肺蘇生の普及の影響を評価。主要転帰は院外心停止1か月後の社会復帰とした。
日本は胸骨圧迫のみの心肺蘇生を活用した心肺蘇生普及の先進国
研究グループは、市民による心肺蘇生(胸骨圧迫のみの心肺蘇生もしくは人工呼吸つきの心肺蘇生)によって社会復帰した院外心停止者数を寄与生存数(人口1000万人あたり)として推計し、その経年的変化を検討した。解析対象となったのは、観察期間中の816,385人の院外心停止患者。そのうち、249,970人(30.6%)が胸骨圧迫のみの心肺蘇生を受け、100,469人(12.3%) が人工呼吸つきの心肺蘇生を受け、465,946人(57.1%)は心肺蘇生を受けていなかったという。
解析の結果、胸骨圧迫のみの心肺蘇生を受けた人の割合は2005年の17.4%から2012年 の39.3%、心肺蘇生全体(胸骨圧迫のみの心肺蘇生もしくは人工呼吸つきの心肺蘇生のいずれか)では34.5%から47.4%と大きく増加。胸骨圧迫のみの心肺蘇生によって社会復帰したと推計される院外心停止者数(人口1000万人あたり)は、2005年の0.6人から 2012年には28.3人、心肺蘇生全体では9.0人から43.6人へと有意に増加していたという。以上の結果から、市民救助者に対する胸骨圧迫のみの心肺蘇生の国家規模の普及が、日本における院外心停止後の社会復帰数増加と関連したと結論づけられたとしている。
胸骨圧迫のみの心肺蘇生は簡単で、教育、普及、実践が容易であるため、心肺蘇生の普及という観点から大きな期待が寄せられている。今回の検討結果は国家レベルでの胸骨圧迫のみの心肺蘇生を活用した心肺蘇生普及の効果を示す貴重な結果だと研究グループは述べている。
▼外部リンク
・京都大学 研究成果