エリンギ由来の「エリリシンA」が、病原体トリパノソーマに結合
理化学研究所は6月11日、理研小林脂質生物学研究室の石塚玲子専任研究員、小林俊秀主任研究員らの共同研究グループが、食用キノコのエリンギに、眠り病(アフリカ睡眠病)の病原体の脂質に特異的に結合するタンパク質が存在することを発見したと発表した。
画像はリリースより
眠り病は、ツェツェバエが媒介する寄生原虫「トリパノソーマ」によって引き起こされる感染症。病状が進行すると、患者は昏睡して死にいたることからこの名前が付いたという。病原体であるトリパノソーマに対する特効薬は現在のところなく、ワクチンや抗体療法による予防や治療が考えられているが、トリパノソーマは抗原変異を繰り返すため、いまだ成功していないのが現状だ。
トリパノソーマは、ツェツェバエと家畜や人間の血流中とを行き来し、血流中に存在するときは「セラミドホスホエタノールアミン」(CPE)という脂質を細胞表面に発現することが報告されている。CPEはトリパノソーマ以外にも、ショウジョウバエや蚊のような昆虫に多く存在するが、ヒトではほとんど検出されない。脂質はタンパク質と異なり遺伝子変異の影響を直接受けないので、抗原変異はきわめて起こりにくい。したがって、トリパノソーマに特異的なCPEは、眠り病の診断や治療薬のターゲットとして有用であると考えられた。
眠り病の新たな診断・治療の可能性を拓く発見
そこで共同研究グループは今回、CPEに結合するタンパク質を探索。その結果、3つのタンパク質、エリンギ由来の「プロロトリシンA2」「エリリシンA」、ヒラタケ由来の「オステリオリシン」が、CPEとコレステロールの複合体と非常に強く結合することを発見した。このうちプロロトリシンA2とオステリオリシンは、ヒトの主要脂質の1つ「スフィンゴミエリン」にも弱く結合する性質があるため、トリパノソーマだけでなくヒトの細胞にも結合。一方、エリリシンAはスフィンゴミエリンへの結合活性はなく、ヒトの細胞には結合しないことが分かった。
エリリシンAとトリパノソーマの結合は数分で起こるため、エリリシンAをトリパノソーマ感染の一次診断に利用できる可能性があるという。また、エリリシンAはエリリシンBの存在下では細胞膜に孔をあける毒素として作用することが知られており、この性質を使ってトリパノソーマ感染の治療に応用できる可能性も考えられると、共同研究グループは述べている。
▼外部リンク
・理化学研究所 プレスリリース