NMRを用いたタンパク質のリン酸化反応観察法
横浜市立大学は6月4日、同大大学院生命医科学研究科の奥田昌彦特任助教と西村善文学長補佐が、新たながん治療薬開発につながるタンパク質のリン酸化反応観察法を確立したことを発表した。同研究成果は「Oncogenesis」誌に6月1日付でオンライン掲載されている。
画像はリリースより
今回発表された観察法は、特殊な分光器(NMR)を用いて化学反応観察をリアルタイムに行うもの。DNA修復、細胞周期、アポトーシス、老化、代謝等のさまざまな生物学的過程に関与する転写因子であるp53を、リン酸化をする酵素として報告されていた8種類の酵素を用いて、リン酸化される様子を観察。ある特別のアミノ酸を特異的にリン酸化する酵素を同定する事ができた上、リン酸化の様子をリアルタイムに追跡でき、同時にリン酸化によって陽的タンパク質に結合する様子もリアルタイムに追跡できたという。
同研究では、高磁場NMR分光器を用いて、p53の転写活性化ドメインと基本転写因子p62のPHドメインとの複合体を例に、p53の46番のセリンと55番のトレオニンが特異的にリン酸化反応される過程と、それによりp62PHドメインとの親和性が増加してゆく過程の両方をリアルタイムで同時にモニタリングすることに成功している。
新規抗がん剤開発と皮膚がん発症プロセスの解明に期待
昨年、同研究グループは、この複合体の構造を解析し、p53のリン酸化した転写活性化ドメインの複合体として世界最初の構造を決定することに成功し、米国の化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に報告。前回の研究では、タンパク質複合体の静的な構造を調べたのに対して、今回の研究では、動的な相互作用を捉えることができたという。
同成果は、がん特有のリン酸化反応のリアルタイムな観察結果をもとに、新薬の開発と安全性確認のスピード向上と、新しい抗がん剤開発への応用に期待が寄せられる。また、同研究の過程では紫外線によるタンパク質損傷と、損傷タンパク質修復の様子を観察する事にも成功。皮膚がんの発症プロセス解明につながる可能性も示唆されている。
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・横浜市立大学 プレスリリース