感染地域を広げつつあるMERSへのリスク対応について評価
国立感染症研究所は6月4日、感染拡大が懸念されている中東呼吸器症候群(MERS)のリスクアセスメントを公表した。
2012年9月22日に英国よりWHOに対し、中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から、後にMiddle East Respiratory Syndrome Coronavirus(MERSコロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルス(以下、MERS-CoV)が分離されたとの報告が発表された。以来、中東地域に居住または渡航歴のある者、あるいはMERS患者との接触歴のある者において、このウイルスによるMERSの症例が継続的に報告され、医療施設や家族内等において限定的なヒト-ヒト感染が確認されている。
今回の発表では、これまでの疫学的所見、臨床所見にあわせて、学術論文情報として、疫学情報・ウイルス学的情報(感染源となる可能性がある動物に関する検討、ヒトからの分離ウイルスについての検討)などがまとめられている。
韓国での集団発生事例から、迅速な対応の重要性を確認
リスクアセスメントとしては特に、5月の韓国における中東地域からの帰国者を発端としたMERSの集団発生事例について言及。医療機関における渡航歴確認の重要性と、医療機関と公衆衛生当局との連携、必要時の迅速な診断、確定例に対する迅速な積極的疫学調査、医療機関での適切な感染予防策の実施が改めて重要と考えられるとしている。
日本においても、今後、現在症例が発生している地域からの輸入例が発生する可能性がある。これら患者は、確定例またはラクダとの接触歴は明確でない場合や軽症である可能性があることに留意し、感染症法に基づく届出基準に従って症例の探知と報告を適切に行うこと、また、確定患者の接触者においてヒト-ヒト感染があることに留意し、迅速に接触者調査を実施し、感染拡大を防止することが重要であるとしている。
さらに、医療従事者は、医療機関内での感染伝播を確実に防止するため、患者の診療に当たる際はMERSが疑われる段階から患者への感染拡大防止に関する指導、医療の実施に当たっては標準予防策及び飛沫予防策を徹底する必要があると指摘している。
今回の報告では、今後も中東地域と韓国、中国における輸入例およびそれに疫学的関連のある症例の発生状況を注意深く監視していくことが重要である、と結んでいる。
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・国立感染症研究所 トピックス