末松氏は、日本の創薬研究について、「研究者の密度も濃く、決して劣っていない。むしろ創薬のできる数少ない国の一つであり、新薬の生みの親になる人は多い」と高く評価しつつ、「問題は育ての親が乏しいこと」と指摘。「創薬はAMEDの非常に重要な課題」との認識を示した。
その一環として、新たな官民連携基盤「産学協働スクリーニングコンソーシアム」(DISC)を立ち上げ、創薬研究の加速に乗り出している。製薬各社が保有する化合物ライブラリーを無償提供し、AMEDの創薬支援戦略部が目利きしたアカデミア発のシーズにヒットするかどうか、化合物群をスクリーニングに生かす。
いわば“創薬シーズのドラフト会議”であり、ヒットした化合物を自社ライブラリーに保有する企業が第一優先開発権を得るというもの。こうした仕組みをAMEDがマネジメントしていく。
末松氏は「新薬の育ての親が乏しい背景には、なかなか製薬企業が大きな投資をできないことも一つの理由。オールジャパンの体制としてDISCをうまく稼働させ、少しでもヒットする化合物を生み出していこうというマインドセットに切り替えていきたい」と意欲を示す。
新薬の開発コストが高騰し、成功確率が低下している現状にも言及し、新薬で開発中止に至った事例を含む研究開発の不成功事例データベースの構築、共有を図りたいとの考えを明らかにした。
末松氏は「治験では思った通りの結果が出ないことも多く、特に非臨床試験で毒性が発現した事例等のデータは重要だ」と指摘。「その経験が生かされないような創薬研究を繰り返すのはどうなのか」と問題意識を示した。
ただ、開発中止事例のデータを公開するとなれば、製薬企業が難色を示すのは必至だ。末松氏は「開発中止例のデータでも、その後の研究開発に生かすことができれば価値がある。秘密保持をしっかりと行い、構築したデータベースを研究者や製薬企業間で情報共有していくような動きにしていきたい。そのための具体的な検討を開始したい」と話している。
さらに、新薬開発に対して「AMEDとして支援できる部分は多い」と述べ、医薬品医療機器総合機構(PMDA)との連携を重視していく考えを表明。例として、薬事戦略相談の内容や特許の質、引用回数等を研究課題の評価などに反映させていくような新たな評価軸を導入していく必要性にも言及した。
AMEDが発足して約2カ月。末松氏は、研究費の合算使用(機器の合算購入や旅費等の合算使用)をできるよう研究費の弾力的運用を実現したり、若手研究者を育成する「リサーチレジデント制度」を開始するなど、積極的な動きを見せており、「いいスタートが切れた」と満足感を示す。今後は創薬研究をはじめ、幅広い多様性を持つ医療研究の“まとめ役”を徹底して果たしていく考えだ。