免疫関連疾患などの発症に関わるHLA遺伝子
理化学研究所は6月2日、日本人のバセドウ病の発症に関わるHLA遺伝子配列の同定に成功したと発表した。この研究は、理研統合生命医科学研究センター統計解析研究チームの岡田随象客員研究員らの共同研究グループによるもの。研究成果は、米国科学雑誌「Nature Genetics」オンライン版に、現地時間の6月1日付で掲載された。
画像はリリースより
移植や免疫反応に関わるHLA遺伝子は、免疫関連疾患、感染症、精神疾患、悪性腫瘍といった多彩な疾患の発症リスクを持つことが知られている。しかしその構造は複雑で、遺伝子配列決定に高いコストを要するため、解明が進んでいなかった。
甲状腺機能の異常をもたらす自己免疫疾患の1つであるバセドウ病の発症も、このHLA遺伝子配列が関与していることが知られていたが、具体的にHLA遺伝子配列のどの部分が関与しているのかは未解明だったという。
複数HLA遺伝子のアミノ配列の個人差で発症リスクが規定
研究グループは、HLA遺伝子の個人差をコンピューター上で高精度かつ網羅的に解析する「HLA imputation法」に、日本人の集団に適用するためのデータベースを開発。これにより、日本人集団におけるHLA imputation法の実施およびHLA遺伝子配列の網羅的な疾患リスク解析が可能となった。このシミュレーション解析を通じて同手法におけるHLA遺伝子配列の推定精度を評価したところ、作成した日本人集団用の学習用参照データが、既存の他の人種集団に対する学習用参照データと比較して、日本人集団に対して高い推定精度を示すことが確認されたという。
そして、このHLA imputation法を大規模ゲノムワイド関連解析へ適用し、日本人のバセドウ病の発症に関わるHLA遺伝子配列の同定に成功。複数のHLA遺伝子(HLA-A、HLA-B、HLA-DRB1、HLA-DPB1)のアミノ酸配列の個人差によってバセドウ病の発症リスクが規定されていることが明らかになった。最も強いリスクを示したのはHLA-DPB1遺伝子の35番目のアミノ酸配列で、同部位のアミノ酸にロイシンを有する人が1.4倍程度、バセドウ病を発症しやすくなることが判明したという。
今回同定されたHLA遺伝子配列は、バセドウ病の発症リスクを予測する疾患バイオマーカーとしての活用が期待されている。また、作成した学習用の参照データを用い、日本人集団における他の疾患にHLA imputation法を適用することで、さらなる疾患バイオマーカーの同定や疾患病態の解明、個別化医療の実現に繋がることが期待される。
▼外部リンク
・理化学研究所 プレスリリース