保険外併用療養の特例を活用した全国初の臨床試験
国立循環器病研究センターは6月1日、心臓から分泌されるホルモン「心房性ナトリウム利尿ペプチド」(ANP)を用いた全国規模の多施設共同無作為化比較試験(JANP study)を先進医療Bにて開始することを発表した。これは、同研究所化学部ペプチド創薬研究室の野尻崇生室長、理事長特任補佐、先進医療・治験推進部の山本晴子部長、寒川賢治研究所長らの研究グループが、実施施設の代表機関である大阪大学呼吸器外科の奥村明之進教授らと連携して行うもの。国家戦略特区における保険外併用療養の特例を利用した先進医療Bの告示例として全国初の案件となる。
画像はリリースより
ANPは、1984年に寒川賢治研究所長、松尾壽之研究所名誉所長らによって発見された心臓ホルモン。今回の臨床研究は、現在心不全に対する治療薬として臨床で使用されているANPの血管保護作用によるがん転移・術後再発抑制効果を肺がん手術に応用したものであり、全国500症例の肺がん患者を対象にしたものだ。ANP投与群、非投与群の2群に分け、術後の肺がん再発率等について比較検討を行うという。同試験では、エントリーされた患者の血液やがん病巣の検体を1か所に集積・保存し、ANPの血管保護作用の観点から、独自の解析を加える予定としており、これらの解析によって、ANPのさらなる新しい作用・メカニズムを見つけることを目的としている。
血管保護作用を応用した抗転移薬としての臨床試験は世界初の試み
がん手術時に血中に放出される遊離がん細胞の多くは、1~2日間以内に細胞死をむかえ消退する。しかし、手術時の炎症によって血管における接着分子(E-セレクチン)の発現が亢進し、遊離がん細胞が効率良く血管へ接着・浸潤してしまうことが、術後早期再発・転移の一因と推測されている。ANPは血管のE-セレクチンの発現を抑制することにより、遊離がん細胞が血管へ接着することを防ぎ、術後再発・転移を抑制していると考えられている。
血管保護作用を応用したがん転移抑制効果を有する”抗転移薬”としての臨床試験は過去に前例がなく、今回が世界初の試みになるという。血管保護によって、がん転移を防ぐという考え方は、肺がんに限らず、あらゆる悪性腫瘍に応用可能と考えられており、今後、さまざまながん拠点病院・研究機関と連携し、血管保護によるがん転移抑制効果をあらゆる形で応用すべく、基礎研究の推進も含めて準備を進めていく予定としている。
参加予定施設は、大阪大学医学部附属病院、東京大学医学部附属病院、北海道大学病院などの全国10施設。各施設における申請・届出等の手続きが完了後、順次臨床試験を開始する予定としている。
▼外部リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース