低酸素性虚血性脳症による脳性麻痺の予防・治療の確立へ
大阪市立大学は5月29日、同大学が取り組んでいた新生児低酸素性虚血性脳症への自己臍帯血幹細胞治療について、国内第1例目の男子の患児が、5月28日に退院したと発表した。この治療は、同大学医学研究科発達小児医学分野の新宅治夫教授を代表とするグループが取り組んでおり、倉敷中央病院で4月29日に臨床治療が行われていた。
画像はリリースより
重症仮死の主因である周産期の「低酸素性虚血性脳症」(HIE)は、出生時の脳への血流遮断により脳神経細胞が低酸素と低血糖に陥ることにより生じる病態。脳神経細胞がグルタミン酸の蓄積から、細胞内カルシウム上昇をきたし、最終的に不可逆的な障害が生じるとされる。周産期のHIEは脳性麻痺の主たる原因であり、重症のHIEは、出生1,000人に対し1~6人の割合で生じ、低体温療法などの有効な治療法を行った場合でも半数は重篤な後遺症を生じるという。いったん脳障害が完成し脳性麻痺の病態を呈すると、現在の科学において有効な治療法はなく、完成する前の新生児期の治療が重要とされてきた。
今後も臨床試験を継続し、フォローアップを継続
研究グループは、免疫拒絶反応の少ない自己臍帯血幹細胞を採取し、遠心分離によりCD34陽性の造血幹細胞を分離して、生後3日間のうちに3回(24時間後、48時間後、72時間後)に分けて直接新生児に点滴投与することで脳性麻痺の予防を図るという治療を行っていた。
今後は、2014年度安全性第1相試験の最初の数例について安全性を確認し、同時に前臨床試験を継続し効果のメカニズムについて解析を行う予定。その後、2015年度中に第1相試験の登録症例が6例に達した時点で改めて安全性を検証するという。安全性が確認されれば登録症例を拡大し、登録症例は効果判定のためのフォローアップを継続する。2016年度には第1相試験登録症例の18か月時点での効果について検証を行い、次の第2相試験に向けての準備を行う予定だ。
新生児低酸素性虚血性脳症は、現在のところ根本的な治療法はなく、場合によっては死亡や脳性麻痺につながるケースが多いとされている。今回、国内の第1例目である男児が無事に退院し、今後もさまざまな事例を積み重ねることで、治療法・予防法の確立につながることに期待が寄せられている。
▼外部リンク
・大阪市立大学 プレスリリース