未解明な部分が多かった基本的な神経回路とそのメカニズム
理化学研究所は5月22日、皮膚感覚を知覚する脳の神経回路メカニズムを解明したと発表した。この研究は、理研の脳科学総合研究センター行動神経生理学研究チームの村山正宜チームリーダーらの国際共同研究グループによるもので、富士通株式会社と株式会社富士通研究所の協力を得て実施された。研究成果は、米国の科学雑誌「Neuron」オンライン版に5月21日付で掲載されている。
画像はリリースより
物に触れた時に得られる皮膚感覚の情報は、脊髄や視床を経由し大脳新皮質の第一体性感覚野(S1)に到達した後、より高次な脳領域に伝わる。この低次の領域から高次の領域への情報入力は「ボトムアップ入力」と呼ばれ、反対に高次から低次への入力は「トップダウン入力」と呼ばれている。
従来の仮説では、外界の情報に基づく外因性のボトムアップ入力と、注意や予測といった内因性のトップダウン入力とが脳のある領域で連合することで、皮膚感覚が知覚されると言われてきた。しかし、このような皮膚感覚の知覚を形成する基本的な神経回路とそのメカニズムは未解明な部分が多かったという。
自動的にフィードバックされる「反響回路」が存在
研究グループは、マウスの後ろ足を刺激したときに脳内で起きる神経活動を単一の神経細胞レベルから回路のレベルまでくまなく測定。その結果、トップダウン入力とボトムアップ入力が一緒になるという連神経活動は観察されなかったという。その一方で、皮膚感覚の情報が外因性ボトムアップ入力として高次脳領域に送られた後に、再び第一体性感覚野へ「外因性のトップダウン入力」として自動的にフィードバックされる「反響回路」が存在することを発見。また、反響回路が、これまで提唱されてきた内因性トップダウン入力と外因性ボトムアップ入力が一緒になることと同等の機能を担っていることを突き止めたという。さらに、外因性トップダウン入力を抑制したところ、マウスは皮膚感覚を正常に知覚できなくなった。
これらの結果から、皮膚感覚の知覚における従来の神経回路モデルとは異なる新しいモデルが示された。脳はこの2つの神経回路を状況により使い分けている可能性があると考えられる。研究グループは今後、詳細に第一体性感覚野への「外因性トップダウン入力」のメカニズムを明らかにすることで、失認の改善や老齢による五感の知覚能力の低下予防・改善の手がかりを得ることが期待できるとしている。
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・理化学研究所 プレスリリース