ヒトTYK2遺伝子多型と糖尿病リスクを検討
九州大学は5月18日、同大大学院医学研究院の永淵正法教授が、九州大学病院、松山赤十字病院、福岡赤十字病院、南内科、岡田内科、福岡大学医学部附属病院、佐賀大学医学部附属病院、大分大学医学部附属病院との共同研究で、ヒトのウイルス糖尿病リスク遺伝子を同定したと発表した。
画像はリリースより
糖尿病は個人の習慣に起因するものと思われがちだが、ウイルス感染の関与も注目されている。とくに、インスリンをつくる膵臓β細胞が破壊されて発症する1型糖尿病の20%、急性の劇症タイプでは70%に、ウイルス感染が深く関与していると推測される。オタフクカゼウイルス、風疹ウイルス、水痘帯状ウイルス、エンテロ(腸管)ウイルスが候補として挙げられており、近年では、エンテロウイルスが糖尿病誘発性のある主要な原因ウイルスであると考えられている。
研究グループは2015年3月に、マウスでは、特定の系統で脳心筋炎ウイルス(EMCV)による膵臓 β細胞破壊によって糖尿病が誘発される場合、糖尿病にかかるかどうかを制御しているのが、インターフェロン(IFN)シグナル分子であるTyrosine kinase2(Tyk2)遺伝子であることを見出していた。そこで、その知見がヒトにも応用できるのか、ヒトTYK2遺伝子多型と糖尿病リスクについての検討を行ったのが今回の研究となる。
ウイルス糖尿病に対するワクチンの開発、リスク軽減に期待
研究では、ヒトのTYK2遺伝子多型を健常人331名、1型糖尿病患者302名、2型糖尿病患者314名を検討。その結果、多型が見られた割合は、健常人4.2%に対し、1型糖尿病患者9.6%、2型糖尿病患者8.6%であり、さらに1型糖尿病患者の内、風邪(インフルエンザ様)症状の後発症した1型糖尿病患者では、13.7%だった。つまり、糖尿病患者では、1型2型に関わらず全ての群で、統計的にこの多型の保有率が高い結果が得られたという。
一方、ランゲルハンス島自己抗体を有する1型糖尿病患者では7.4%と、自己抗体のない患者群12.8%と比較して、むしろ低い保有率だったことが判明。また、この多型と関係する2型糖尿病のリスクは、肥満とは関連していないことも明らかとなった。このことは、この遺伝子多型が自己免疫1型糖尿病と関連する可能性は乏しく、ウイルス誘発糖尿病のリスクであること、さらにそのリスクは、1型糖尿病のみならず、非肥満の2型糖尿病においても、重要であることを示唆するとしている。
今後は、糖尿病誘発性ウイルスワクチン開発による1型糖尿病の予防や2型糖尿病のリスク低下に向けた研究の進展に期待が寄せられる。なお、同研究成果は、「Science Direct」オンライン速報に5月9日付で掲載されており、今後は「EBioMedicine」に確定版で掲載される。
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・九州大学 プレスリリース