九州大学病院は、A4サイズの院外処方箋を改編し、右側に14項目の検査値を表示する欄を新設した。1回分の表示にとどまる事例が多い中、経時的な変化がよく分かるように、過去8カ月以内に測定された2回分の検査値と検査日を表示する。
また、検査値欄の上には身長、体重、体表面積を併記する。体重や体表面積に応じて投与量が異なる新規経口抗凝固薬や抗癌剤をチェックしたり、腎機能をより適切に判断したりするための指標として役立ててもらうという。医師から薬局への連絡事項を記載する欄も新たに設けた。
九州大学病院教授・薬剤部長の増田智先氏は「より詳しく指導してほしい内容に加えて、医薬品服用中の自動車運転の禁止に関する説明を依頼したり、アドヒアランスのチェックを依頼したりするなど、薬局薬剤師に気をつけてほしいことを医師に記入してもらう」と語る。
同欄の下部には、薬局から病院への返信欄を設けた。同院薬剤部にFAXで送信すると、電子カルテにその内容が反映される。意思疎通を容易にすることで、病院と薬局の連携を促進したい考えだ。
京都大学病院准教授・副薬剤部長を経て2013年9月に現職に就いた増田氏は、同院の事例を参考に、院外処方箋への検査値表示を実現するため、院内外で調整を進めてきた。同院の院外処方箋の約6割は面に拡散している。同院薬剤部は近隣の薬剤師会との連携を重視し、話し合いを重ねてきた。こうした経緯もあって福岡市、宗像、粕屋、筑紫、糸島の5薬剤師会は昨年7月、連名で院外処方箋への検査値記載を依頼する要望書を、九州大学病院長宛てに提出した。院内でも大きな異論はなく、実施が承認された。
福岡市薬剤師会会長の瀬尾隆氏は「薬局薬剤師の責任は重くなるが、そこから逃げてはいけない。チャンスと捉えて前向きに取り組んでいきたい」と強調。「検査値をもとに、今まではできなかった疑義照会を行うことで、患者さんのための薬の変更や減量が可能になる。連携を深める第一歩だと思う。薬剤師の意識も変わる」と話す。
増田氏は「投与量の適正化や副作用の早期発見の役割を果たしてほしい。また、定期的な検査の実施が求められる医薬品について、検査が実施されていなければそれを促す疑義照会を行ってほしい」と期待を寄せる。今後は、疑義照会の内容が6月以降どのように変わり、どんな効果があったのか、実施前のデータと比較して検証する計画だ。
■4月から全面的に運用‐熊本大病院
熊本大学病院は、京都大学病院の事例を参考に、院外処方箋の様式をA5からA4サイズに変更。13項目の検査値について、過去4カ月以内の最新の結果値、検査日、同院設定の基準範囲を表示する欄を新設した。
熊本県内で初の取り組みとなるため、当初は慎重に開始した方が望ましいとの院内医師の意見を踏まえ、昨年12月2日から試行的に検査値表示を開始した。当初は非表示を標準設定とし、処方箋発行時に医師がチェックボックスをクリックすることで検査値が表示される仕組みを採用した。
試行期間中に検査値が表示された院外処方箋は全体の約2割。試行期間中に問題点や検討事項などは発生しなかったため、4月からは検査値表示を標準設定とし、患者の希望や医師の判断によって検査値を表示しない場合は、チェックボックスをクリックすることで検査値が表示されない設定に切り替えた。
同院教授・薬剤部長の齋藤秀之氏は「薬局薬剤師は来局する患者さんの情報がほとんど把握できない中で処方鑑査する状況が続いていた。腎機能や肝機能、薬剤の副作用や効果の指標となる検査値情報を活用することで、処方鑑査と疑義照会の質的向上が図られ、外来患者さんの医薬品適正使用や安全管理につながることを期待したい」と強調。今後は「この取り組みによってどれだけ安全管理が向上したかという検証が大事。熊本県薬剤師会などの協力を得て効果の検証を行いたい」と話している。