IL-6の作用を阻害する抗体薬が肺高血圧発症を抑制
大阪大学と科学技術振興機構(JST)は5月5日、同大大学院医学系研究科内科学講座(循環器内科学)の中岡良和助教、片岡崇弘大学院生(博士課程4年)、坂田泰史教授らの研究グループが、難病の1つである肺高血圧症の新しい発症メカニズムを発見したと発表した。本研究成果は、「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)電子版に5月4日付けで掲載されている。
画像はリリースより
近年の研究から、肺高血圧症の発症には炎症が重要で、特に炎症を誘導するサイトカインの1つであるインターロイキン6(IL-6)は肺高血圧症の病態の鍵を握ると考えられてきた。しかし、IL-6が肺高血圧症の発症を促進するメカニズムはこれまで不明だった。
IL-6やIL-21に対する阻害療法が、新しい治療法や創薬に寄与
今回、研究グループは、IL-6の作用によって主にヘルパーT細胞の一種であるTh17細胞から分泌されるインターロイキン21(IL-21)が肺高血圧症の発症に重要な役割を担うことを発見。IL-21が肺に存在するマクロファージをM2マクロファージ優位な状態に誘導して、M2マクロファージの肺組織への集積と相関して肺動脈平滑筋細胞の増殖が促進されることで、肺高血圧症発症に至るメカニズムが初めて明らかになったという。
研究グループが今回の研究で使用したIL-6を阻害する抗IL-6受容体抗体は、ヒトでは「トシリズマブ」(商品名:アクテムラ)として関節リウマチ、キャッスルマン病、小児の全身性若年性特発性関節炎に保険承認されて既に世界中で汎用されており、今後はIL-6阻害療法の肺高血圧症の治療における有効性を検討する必要があるとしている。
また、IL-21を阻害する作用を持つ生物学的製剤も既に開発されており、IL-21の作用を阻害する治療法の有効性を抗IL-6受容体抗体と同様に今後検討することで、肺高血圧症に対する新しい創薬に発展することが期待されると研究グループは述べている。
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・科学技術振興機構 共同発表