脳梗塞超急性期の再開通治療、アジアではどう対応すべきか
国立循環器病研究センターは5月6日、同センター脳血管内科・脳神経内科の豊田一則部門長らの合同研究チームが、今年になって次々と発表された脳梗塞超急性期血管内治療臨床試験の成功を受け、アジアという民族的特殊性を考慮した今後の急性期脳梗塞治療の展望をまとめたことを発表した。この総説は、米国心臓協会・米国脳卒中協会機関誌の「Stroke」6月号に設けられた特集企画のために執筆を求められたもので、同誌のオンライン版に掲載されている。
この総説ではアジアにおける脳卒中の特殊性が、「頭蓋内動脈硬化性病変が多い」「頭蓋内出血が多い」「独自の食生活や生活習慣」「遺伝学的背景」の4点に由来することから起稿し、次いで脳梗塞超急性期の再開通治療として静注血栓溶解療法(tPA静注)と脳血管内治療のアジアにおける現状を解説しているという。
脳梗塞超急性期の脳血管内治療は、手技的複雑さや脳の脆弱さのために開発が遅れていたが、近年になり専門の脳動脈血栓回収機器が開発され、次第に治療効果を高めてきた。このうち「ステントリトリーバー」と呼ばれるステント型脳血栓回収機器を用いた臨床試験の成果が、最近相次いで報告。この機器は、ステントを血栓にめり込ませ、血栓を網目に絡めつつ取り除くものだ。報告によると、一定の条件を有する脳梗塞患者に主にtPA静注による標準内科治療に追加して脳血管内治療を行うことで、内科治療のみと比較し3か月後の患者転帰が大幅に改善。この結果を受け、国内の適正治療指針が今年4月に改訂されたばかりであった。
静注血栓溶解療法と脳血管内治療のアジアにおける現状を解説
アジアにおける医療は地域差が大きく、日中韓などの東アジアで再開通治療の普及や臨床研究が進んでいるのに対し、他の地域ではtPA静注でさえ標準治療として定着していないことが少なくない。また急性期脳血管内治療の問題点として、アジア人は頭蓋内動脈狭窄性病変が比較的多いために、脳動脈血栓回収機器のみでは十分に再開通しない場合も少なくないであろうと考察している。
この場合、血栓回収に続けてバルーンでの脳動脈形成術ないしステント挿入術を組み合わせる必要も生じるが、これらの治療はエビデンスが確立していないため、アジア発の臨床試験の必要性に言及。さらに、抗凝固薬などを用いた抗血栓療法における合併症である頭蓋内出血が、とくにアジア人に多い点も、今後の超急性期治療戦略の構築に影響を及ぼすだろうと報告している。
▼外部リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース