従来のV-Pシャント術から、脳を傷つけないL-Pシャント術へ
東北大学は4月30日、特発性正常圧水頭症(iNPH)に対する腰部くも膜下腔腹腔脳脊髄液短絡術(L-Pシャント術)の有用性を、世界で初めて立証したと発表した。
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この研究は、同大大学院医学系研究科の森悦朗教授、大阪大学大学院医学系研究科の数井裕光講師、順天堂大学医学部の宮嶋雅一先任准教授、洛和会音羽病院正常圧水頭症センター石川正恒センター長らが、全国20施設と共同で行った多施設共同臨床試験。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社と日本メジフィジックス株式会社の支援を受け、日本正常圧水頭症学会の研究プロジェクトとして行われた。
特発性正常圧水頭症は、高齢者において、先行する疾患が無く、徐々に進行する正常圧水頭症の一種。脳の中に液体がたまり、歩行障害や認知症、尿失禁といった症状を示す。従来、特発性正常圧水頭症の治療には、脳室から腹腔へ脳脊髄液を短絡させる治療法「脳室-腹腔シャント術(V-Pシャント術)」が主流だったが、脳中にチューブを挿入するため、脳を傷つけてしまう可能性があった。そこで研究グループは今回、腰椎部分のくも膜下腔から腹腔へ脳脊髄液を短絡させる「腰椎−腹腔シャント(L-Pシャント術)」の有用性を検証した。
歩行障害、認知症、尿失禁などの症状の改善認める
臨床実験は93名のiNPH患者で行われ、すぐにL-Pシャント術を受ける群(早期群49名)と、プログラムに沿った体操をしていきながら、3か月間手術を待った後にL-Pシャント術を受ける群(待機群44名)の2つにランダムに分けた。そして3か月後、登録時点からの症状の変化を早期群と待機群で比較したという。
その結果、日常生活活動の自立度に改善を認めた患者の割合は、早期群で49名中32名(65%)、待機群で44名中2名(5%)であった。また、早期群にのみiNPHの症状(歩行障害、認知症、尿失禁)の改善も認められ、両群間に大きな差を認められた。これによって、iNPHにL-Pシャント術が有効であることが証明された。
さらに、シャント術後12か月間の改善についても両群間で比較したところ、ほとんど差がなくなり、以前報告されたV-Pシャント術の効果と同等だった。重篤な有害事象は、手術後12か月の間に87例中10例(11%)に認められ、多くはシャントチューブの問題であったという。この研究によって、脳を傷つけない治療法であるL-Pシャント術の有用性が世界で初めて明確に示されたこととなる。
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・東北大学 プレスリリース