難治性・再発性乳がんの治療耐性機序を解明
熊本大学は4月30日、高速シーケンサーの解析を用いて、ヒトの乳がんの治療抵抗性の仕組みを解明したと発表した。これは、同大発生医学研究所の中尾光善所長らが、同大大学院生命科学研究部 乳腺・内分泌外科学分野の冨田さおり医師、岩瀬弘敬教授、九州大学医学研究院の大川恭行准教授らと行った共同研究による成果。英科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に、4月29日付けで掲載されている。
画像はリリースより
乳がんの多くには、女性ホルモンであるエストロゲンを阻害するホルモン療法が有効であるとされていたが、治療後に治療抵抗性(または治療耐性)のがんの再発が起こることがあるという課題があった。また、エストロゲン受容体をつくるESR1遺伝子が活性化することが、乳がんが治療耐性となるひとつの原因であるが、その機序は未解明な点が多かった。
ESR1遺伝子活性化に、新規の非コードRNA「エレノア」が関与
研究グループは、ホルモン療法が効きにくい状態におけるESR1遺伝子の変化に着目し、培養細胞を用いたモデル実験を行った。その結果、エストロゲン受容体が過剰に活性化している乳がん細胞では、ESR1遺伝子の全体から多量のRNAが作られることが予想されたという。
次に、高速シーケンサーを用いて、乳がん細胞の全てのRNAを調べてみたところ、もとの乳がん細胞に比べて、難治性細胞では、ESR1遺伝子のみならず、その近くの非コード領域から大量のRNAがつくられていることが判明。しかも、この多量のRNAは核内でESR1遺伝子を取り囲んでいると考えられた。同研究グループは、ESR1遺伝子の働きを活性化するこれらの新規の非コードRNAを「エレノア」(Eleanor)と名づけた。
さらに、治療の可能性について多くの薬剤を調べたところ、難治性細胞をポリフェノールの一種である「レスベラトロール」で処理すると、エレノアとエストロゲン受容体が速やかに減少して、細胞の増殖が停止することが分かった。つまり、レスベラトロールは、ホルモン療法が効きにくくなった乳がん細胞の増殖を阻害する可能性をもつことが示唆されたという。
今回の研究成果は、「エレノア」非コードRNAの発見を契機として、乳がん細胞のホルモン療法への耐性化のエピゲノムを明らかにしたものであり、新しい診断および治療法の開発に役立つと期待が寄せられる。
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・熊本大学 プレスリリース