セリンを起点とする新たな細胞内恒常性を維持する仕組み
九州大学は4月28日、細胞や組織が、非必須アミノ酸であるセリンを自ら合成することで、強力な細胞毒性を持つデオキシスフィンゴ脂質類の合成と細胞内への蓄積を防いで細胞内恒常性を維持するという、アミノ酸の新たな働きを明らかにしたと発表した。
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これは、同大大学院農学研究院の古屋茂樹教授ら研究グループと、理化学研究所・脳科学総合研究センターの江﨑加代子研究員(分子精神科学研究チーム)、平林義雄チームリーダー(神経膜機能研究チーム)らとの共同研究により得られた成果。米国生化学・分子生物学会誌「Journal of Biological Chemistry」オンライン版に4月23日付で掲載されている。
研究グループは、質量分析装置によるスフィンゴ脂質類の網羅的一斉分析システム(リピドミクス)を新たに構築。今回の研究では、この分析システムにより、Phgdh欠損マウス胚性線維芽細胞(KO-MEF)と脳特異的Phgdh欠損マウス中枢神経系において、セリンが合成できなくなると細胞障害性を持つデオキシスフィンゴ脂質類が蓄積し、それらが細胞内に出現する脂肪の液滴内に溜め込まれることを見出したという。
生活習慣病症状の改善や発症遅延に貢献できる可能性
細胞の生存に重要な役割を果たすスフィンゴ脂質に欠かせないセリンとパルミトイルCoAの組み合わせに対し、細胞毒性の高いデオキシスフィンゴ脂質類は、アラニンとパルミトイルCoAにより合成される脂質だ。
今回の研究結果により、細胞内でのセリン合成能力が弱くなると細胞内のアラニン/セリン比が増大し、アラニンがスフィンゴ脂質合成経路に入り込み、細胞内の脂質代謝と小器官構造が変化して、生存力に影響することがわかったという。さらにこれらの脂質は、細胞内でアラニン/セリン比が4倍を越えると出現し、細胞増殖の抑制や細胞死の誘発など極めて強い細胞毒性を持つことを見出した。デオキシスフィンゴ脂質類は、組織・細胞のアミノ酸不均衡、特にセリン欠乏の特異的で鋭敏なバイオマーカーとなることを示しているという。
このデオキシスフィンゴ脂質類は、ある種の遺伝性ニューロパチー(HSAN1)、肥満、2型糖尿病等の生活習慣病患者からも検出されていることから、これらの疾患の悪化や末梢組織の病態進行にも寄与している可能性がある。そのため、セリンを摂取することでアラニン/セリン比の増大を抑制し、デオキシスフィンゴ脂質類の合成と蓄積を防ぐことで、生活習慣病症状の改善や発症遅延に貢献できる可能性があると研究グループは述べている。
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・九州大学 プレスリリース