アストロサイトが糖を代謝する働きを利用し、D-セリンの合成を調節
慶應義塾大学は4月21日、同大医学部解剖学教室の鈴木将貴特任助教と相磯貞和教授らの研究グループが、神経伝達を調節するアミノ酸の一種であるD-セリンの新たな制御メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究成果は、米科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版に4月13日付で公開されている。
画像はプレスリリースより
脳の中では、大脳皮質や海馬が記憶の形成や感情の変化に関係している。これらの場所にある神経細胞では、D-セリンやL-グルタミン酸などの神経伝達物質がNMDA型グルタミン酸受容体と結合することで興奮が伝えられているが、この調節には神経細胞の周囲にあるアストロサイトの働きが重要とされ、この調節に異常をきたすと、統合失調症などの精神疾患や、筋萎縮性側索硬化症(ALS)・アルツハイマー病などの神経変性疾患を引き起こすと考えられている。
また、アストロサイトは糖を代謝することで、神経細胞に多くの栄養を供給していることが知られている。そこで研究グループは、アストロサイトの糖代謝がD-セリンの合成に直接関係しているのではないかと考え、糖代謝によるD-セリンの合成への影響を検討した。
精神・神経疾患の病態解明に繋がる可能性
その結果、アストロサイトが糖を代謝する際に必要な酵素セリンラセマーゼ(SRR)と、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)が、神経伝達に重要なD-セリンの合成も調節していることを世界で初めて発見。さらに、海馬の一部である海馬支脚において、この酵素が多く見られることから、海馬支脚にあるアストロサイトが糖代謝を利用し、記憶や感情に関与する大脳皮質や海馬の神経機能を制御している可能性を見出したという。
同研究グループは、L-グルタミン酸とD-セリンによる神経伝達のみならず、その他の神経伝達物質でも同様にエネルギー代謝と神経伝達の間には関連があると述べている。また、この研究成果によって、神経伝達の調節異常により発症する鬱病や統合失調症などの精神疾患に代謝調節が関係している可能性も示唆され、将来的には精神・神経疾患の病態解明や治療開発にも繋がる可能性があるとしている。
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・慶応義塾大学 プレスリリース