皇太子殿下出席のもとに執り行われた開会式では、高久史麿医学会会長が「第29回総会は、井村裕夫会頭の英断でオール関西での開催となった。第28回総会は、東日本大震災のために極めて小さなものとなったが、8年ぶりに本格的に開かれる今回の総会は極めて意義深い」と開会の辞を述べた。
式辞では、井村会頭が、まず、「自治体の関西広域連合の活動、政府の国家戦略特区も京都・大阪・神戸が一体で特区に認定されていることなどの理由で、今総会は初めてオール関西での開催となった」と説明した。さらに、「医学医療は、大きな転換期に差しかかっている」と強調し、「先制医療、再生医療、がんの新しい治療など医学の進歩は目覚ましい。一方で、急速に進む少子高齢社会で医療制度をどう維持していくかが大きな課題になっている」と指摘。その上で、「3日間の学術講演・学術展示を通して、医学の進歩と医療の課題を理解してもらえるものと期待している」と呼びかけた。
続いて、皇太子殿下が「少子高齢化が進む中、優れた医療制度(国民皆保険制度)をどのように持続可能なものとし、より良いものに発展させていくかが問われている」と明言。「この課題は医療従事者だけでなく、社会全体で取り組むことが求められており、今までにない社会に開かれた医学会総会の取り組みはとても大切であると思う」とし、「この総会が、人々が健康で安心して暮らせる明るい社会作りに寄与することを願いたい」とお言葉を述べられた。
来賓祝辞では、横倉義武日本医師会会長が、「今、地域の特性に則した地域包括ケアシステムの再構築が求められている。最新の医学の話題も含めて、参加者が研鑽し、重要な成果を上げられることを期待したい」と強調。
山田啓二京都府知事は、「医療関連産業育成を目指す関西で医学会総会が開催されることは、超高齢化社会に対応するためにも非常に有意義である」、門川大作京都市長は、「京都の伝承産業の知恵が、最新鋭の医療機器にも応用できることを改めて認識してほしい」とあいさつした。
(写真提供:第29回日本医学会総会2015関西)
■健康社会宣言を発表
また13日、学術講演の最終日に「健康社会宣言2015関西」を発表した。同宣言は主に[1]治療から予防へのパラダイム・シフト[2]個の医療の推進[3]トランスレーショナル・リサーチと臨床研究の促進[4]出産、子育ての支援[5]地域医療、看取り医療の推進――の五つの観点から、新しい健康社会の確立に向けて官民の協力を得て努力することを表明したもの。
具体的には「加齢に伴う慢性疾患においては、臨床症状などの異常が現れる前に予測し、発症前に介入する先制医療を目指すべき」とし、「治療から予防へのパラダイム・シフトを行っていく」と宣言。それと共に「高齢者が寝たきりにならないように、筋力の維持、リハビリテーションなどの対策を進める」とした。
また、個の医療の推進については「従来の画一的な医療と異なり、個人の遺伝素因、環境に基づいて最適の治療法を選択することにより、個人や医療制度への負担を軽減する。それを実現するためにゲノム、エピゲノムなどの研究を推進すると共に、臨床疫学的研究や大規模データの活用を進めていく」と強調した。
このほか、地域医療、看取り医療の推進としては「地域と地域医療の連携体制の整備、基本領域専門医の育成、かかりつけ医を中心とした地域包括ケアの推進などを、政府や自治体と協力して推進する。また高齢者の看取りの医療のあり方についての国民的合意が得られるよう努力する」と表明した。