1年死亡率が75%とされる治療抵抗性の心不全患者を対象に
科学技術振興機構(JST)は4月10日、心筋再生細胞製剤を製造するベンチャー企業「Adipo Medical Technology株式会社」を設立したと発表した。設立日は4月1日付け。
画像はプレスリリースより
JSTは産学連携事業の一環として、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業のための研究開発を推進している。そのなかで、平成24年度より医薬基盤研究所(NIBIOHN)に委託していた研究開発課題「同種脂肪組織由来多系統前駆細胞の重症心不全治療細胞医薬品としての開発」において、重症心不全の治療を目的とする再生医療等製品の開発に成功。今回の企業設立は、この成果に基づいて行われた。
何度も心筋梗塞を起こしたことによって、残存心筋幹細胞が減少・消失する慢性心筋梗塞などの重症心不全においては、内科的治療のみでは十分な効果を上げられず、PCI(冠動脈形成術)あるいはCABG(冠動脈バイパス術)による血流改善も限定的な効果しか期待できない。これら治療抵抗性の心不全の患者は、1年死亡率が75%と高く、新規治療法の開発が待たれていた。
重症心不全の治療を目的とするReady-made型再生医療等製品
そこで研究グループは、同種皮下脂肪を細胞源として培養して得られた、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)を原料とし、慢性心筋梗塞を適応症として冠動脈から投与する細胞浮遊製剤を開発。同剤は、心臓カテーテルで投与後に心臓の筋肉の中で心筋細胞へと変化して心臓にとどまるという。この製品は、再生医療等製品として医薬品と同等かつ患者に投与しても問題ない水準となる。
この治療法は心筋梗塞を起こした部分にだけ細胞製剤を投与できるため、副作用が少なく、繰り返して治療を受けることが可能だ。また、Ready-made型の再生医療等製品としての開発が成功したことから、患者の状態に合わせて治療計画を立てることが容易となった。これらの結果により、患者の身体的負担や経済的負担が少ない安全な治療法になることが期待できる。
今後は、設立した会社で企業治験を開始。治験では、健康な人から提供を受けた腹部の皮下脂肪から、さまざまな細胞へと変化する能力を持つ多系統前駆細胞を分離し、分化培養して製造した再生医療等製品を使用するという。対象は、何回も心筋梗塞を起こしてしまったために、従来の風船療法や心臓血管外科手術では治療が十分でない患者となる。血管から心臓に直接投与するため、カテーテル検査の技術がある医師であれば、誰でも簡便に投与することができるという。
同社は、3年後に製造販売承認申請を行い、5年後に年間売り上げ5億円を目指すとしている。なお、4月1日の日本医療研究開発機構(AMED)設立に伴い、AMEDが同課題を承継し、引き続き製品化に向けた支援を実施していくという。
▼外部リンク
・科学技術振興機構 日本医療研究開発機構 共同発表