新たな脳転移メカニズムを世界に先駆け解明
国立がん研究センターは4月2日、乳がんの脳転移について、がん細胞より分泌される微小な小胞エクソソームが生体バリアである血液脳関門(blood-brain barrier=BBB)の破壊に関与することで、がんが容易に脳転移を起こすことを明らかにしたと発表した。
画像はプレスリリースより
この研究成果は、同センター研究所分子細胞治療研究分野の富永直臣研修生、落谷孝広分野長の研究グループによるもの。「Nature Communications」(電子版)に4月1日付けで掲載されている。
脳血管は、BBBによって脳実質への物質透過を制限及び調節している。乳がんの脳転移のメカニズムにおいて、何故がん細胞が生体バリアであるBBBを通過できるのかは大きな謎であり、分泌タンパク質を始めとする様々な分子やがん細胞の浸潤機序などが研究されてきた。しかし、どのような分子が、がん細胞のBBBの通過に大きく関与するかは、完全に明らかにされていなかった。
脳転移患者血清においても、miR-181cの存在量が有意に上昇
研究グループは、乳がん脳転移細胞株を樹立し、脳血管構造を模倣したin vitro BBBモデルを用いて検討を実施。その結果、脳転移細胞株により分泌されたエクソソームがBBBを構成する細胞の密着結合及び接着結合の状態を変化させることが明らかとなったという。網羅的解析の結果をもとに、エクソソームに内包されたマイクロRNA(miR-181c)をin vitro BBBモデルに導入したところ、エクソソームを処理した場合と同様にBBBが破壊された。また、miR-181cは細胞内で、PDPK1と呼ばれる分子を標的とし、PDPK1の発現を抑制。それにより、アクチンの脱重合を促進するコフィリンが活性化することが明らかとなった。
さらに、マウスモデルにおいて脳転移細胞株により分泌されたエクソソームは、脳に集積し、血管の透過性を促進し、脳転移を促進することも証明。また、脳転移のある患者と脳転移のない患者の血清中に含まれるエクソソームを調べたところ、脳転移のない患者に比べ脳転移のある患者では、miR-181cが多く含まれていることが明らかとなったという。
これらの成果は、今後、患者の血清から特定のマイクロRNAを検出することで脳転移の早期発見に寄与する可能性が考えられる。さらに、がん細胞によるエクソソーム分泌の抑制やmiR-181cを標的とした治療法の開発など、新たな治療法の確立ヘの道を拓くことが期待されると研究グループは述べている。
▼外部リンク
・国立がん研究センター プレスリリース