■処方提案や残薬確認など促す
日本老年医学会は1日、国立長寿医療研究センターなどと共同でまとめた「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」案を公表した。指針案は10年ぶりに全面改訂したもので、薬剤師の役割について領域を新設した。高齢者に中止を考慮すべき薬物、強く推奨される薬物のリストを処方提案を含めた薬学的管理に活用するよう促すと共に、多剤併用への介入や処方見直しへの積極的な関与を求めている。
10年ぶりの全面改訂となった指針は、中止を考慮すべき薬物・使用法のリストである「ストップ」と、強く推奨される薬物・使用法のリストである「スタート」の二つの薬物リストを作ったのが特徴。ストップは、前回指針で高齢者に特に慎重な投与を要する薬物のリストを改訂したもので、スタートは今回リスクベネフィットの観点から新たに追加した。
「ストップ」のリストには、高齢者で重篤な有害事象が出やすかったり、頻度が高いものを選んだ。ストップの薬物は、基本的に高齢者に処方しないことが望ましいとし、服用薬にあった場合は中止・変更を考慮することなどとした。全ての高齢者に中止を考慮すべきとし選んだ薬剤として、転倒や認知機能低下などの危険から、三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、パーキンソン病治療薬、制吐薬などが挙げられた。
リストの利用について、指針では「特に高齢者の薬物療法における薬剤師の役割は、今後ますます大きくなると考えられる」と指摘。薬剤師による処方提案を含めた薬学的管理にリストを活用するよう促した。
服薬管理・支援と一元管理の項目では、認知症で見られる服薬管理能力の低下に対し、服薬状況を確認しながら薬剤と服用方法を決定していく慎重な態度が望まれるとし、各系統の薬剤はなるべく単剤で、1日1回の服用で済むようにすることを推奨した。自己管理で服薬管理能力に問題がある場合のみならず、介護者が服薬管理をする場合の手間を省く意味で一包化調剤が有効との認識を示した。
また、外来診察だけで服薬状況を把握するのは容易ではないとし、薬剤師などから情報提供を受けるため、医師から積極的に病態や処方理由などの医学的情報を伝える必要があると指摘。その共有ツールとして「お薬手帳」を例示し、処方変更の理由や病名、検査値などを記入すると、調剤や疑義照会、薬局での指導に役立つと、お薬手帳の活用を促した。
その上で、処方を一元化するのが難しい場合、せめて薬局は一元化すべきとの考えを示し、かかりつけ薬局で患者の処方情報は全て把握し、重複処方や併用禁忌、「ストップ」リストの薬物などをチェックし、疑義照会が適切にできるような体制にすべきとした。
さらに、指針では薬剤師の役割についても項目を定めた。高齢者は複数の疾患に罹患していることが多いため、多剤併用に陥り、薬物有害事象の発現頻度が高まりやすい。そのため、薬剤師が残薬確認や処方設計の介入などを行う薬学的管理を行うことで、重篤化の回避が可能になるとして、推奨度を「強」とした。
漫然投与に対し、薬剤師が定期的に処方を「見直す」ことが薬剤数の削減、薬物有害事象の減少抑制につながるとした。用法など複雑な処方に対し、薬剤師が医師に提言することは有効とし、多剤併用への介入も薬物有害事象の減少、医療費削減につながるとして強く推奨。薬剤師による電話カウンセリングが薬物治療のアドヒアランスを改善し、死亡率を減少させるなどのエビデンスを示し、薬剤師の積極的な関与を促した。