血友病A患者のQOL向上への貢献に期待
バイオジェン・アイデック・ジャパン株式会社は3月9日、血友病A治療薬「イロクテイト(R)」(遺伝子組換え血液凝固第VIII因子Fc領域融合タンパク質製剤)の販売を開始。これを受け3月10日、都内でセミナーを開催した。
荻窪病院 理事長 花房秀次氏
登壇した荻窪病院 理事長の花房秀次氏は、セミナー冒頭で「イロクテイトは血友病A治療における重要なマイルストーンであるとともに、患者QOL向上への貢献が期待できる薬。また、今回イロクテイトはアメリカに次いで2番目に発売された。我が国の新薬承認が迅速になったことはもっとも特筆すべきこと」と語り、近年普及しつつある定期補充療法など、血友病治療の最新動向について講演した。
頻回の静脈注射が患者の身体的・精神的負担に
血友病は血液凝固遺伝子の不足、あるいは欠乏によって出血時に血が止まりにくくなる遺伝性の疾患。さまざまな部位で出血が起こるが、関節や筋肉内など、身体の外側よりも内側での内出血が多いことが特長。重症患者の場合、関節内で出血が頻発し、関節が変形することにより、不可逆かつ慢性的な関節障害を引き起こすこともある。
血友病治療では、とくにこの関節内の出血を抑え、関節障害を予防することが重要となる。近年では定期的に血液凝固因子製剤を投与し、出血頻度そのものを減らすことで関節障害を防ぐ「定期補充療法」が普及しつつある。しかし現行の定期補充療法は頻回に血液凝固因子製剤を投与する必要があり、患者にとって身体的・精神的負担が大きく、投与間隔を長くする長時間作用製剤に高い期待が寄せられていた。
今回発売されたイロクテイトは、3~5日間隔での投与、患者の状態によっては週1回の投与で出血を抑制することができる長時間作用の血友病A治療薬。この長時間作用を実現させたのは、Fc領域融合テクノロジーと呼ばれる技術で、免疫グロブリンG(IgG)抗体が体内で再循環する仕組みを利用して治療用タンパク質の分解を防御し、半減期を延長させるもの。同剤はこのIgGのFc領域と共有結合した血液凝固第VIII因子で構成されている。
治療歴のある12歳以上の血友病A男性患者165例に対して行った国際共同第3相試験(A-LONG試験)では、同剤を週1回定期的に投与した群で、年間出血回数が出血時投与群と比べて76~96%減少した。また、急性出血時の投与では、87.3%が1回の投与で止血可能だった。
ただ血を止めるだけの治療は終わった
治療薬の進歩によって現在の血友病治療は、「出血ゼロ」を目指すようになりつつあると、花房氏。小児では、血友病の出血症状を100%近くコントロール可能になってきており、高齢の血友病患者の平均寿命も延びると予測されている。一方で、頻回の静脈注射は患者のQOL低下の要因となっており、小児の患者ではQOL低下要因として、医師から最も多く指摘されている。
花房氏は、長時間作用製剤の発売により、注射回数を減らせることで、患者QOLの向上が見込めるほか、これまで血友病治療の課題だったアドヒアランス低下問題の解消にも期待を寄せた。また、血友病の専門病院は数が少ないため、遠方から通院する患者も多いが、通院回数を減らすこともできるだろうと語った。
いま、血友病治療は「ただ血を止める」だけではなく、出血回数を減らして関節障害などの悪化や発生を防ぐための、包括的な治療を目指すものに変化しつつある。花房氏は、「整形外科や歯科、リハビリテーション科などと連携した、チーム医療が必要となってきている。また、血友病だけではなく、どんな病気でもこうした包括的な医療が提供できるようにしなければならない」と締めくくった。
▼外部リンク
・バイオジェン・アイデック・ジャパン株式会社