増殖に必須の遺伝子を欠損したウイルスを作製
東京大学は3月27日、同大医科学研究所の河岡義裕教授らの研究グループが、新しいエボラウイルスワクチンを開発し、霊長類において、同ワクチンが有効であることを示したと発表した。この研究成果は、米科学雑誌「Science」のオンライン速報に3月26日付で公開されている。
画像はプレスリリースより
これまでに河岡教授らの研究グループは、エボラウイルスの増殖に必須の遺伝子「VP30」を欠損した変異エボラウイルス(以下、エボラΔVP30ウイルス)を、人工的に作製していた。このエボラΔVP30ウイルスは、通常の細胞では増えないが、VP30蛋白質を発現する人工細胞で効率良く増殖する。つまりエボラΔVP30ウイルスは、特定の人工細胞でしか増えられないため安全であり、現在臨床試験が行われている他のエボラワクチンと異なり、エボラΔVP30ウイルスは、エボラウイルスを構成するほぼ全てのウイルス蛋白質を有するため、より高いワクチン効果が期待されていた。
安全性が高く、効果的な新規エボラワクチンとして有望
そこで研究グループは、エボラΔVP30ウイルスのワクチンとしての効果を調べるために、1000万個のエボラΔVP30ウイルスをサルに筋肉内接種し、4週間後に、致死量のエボラウイルスを感染させた。すると、エボラΔVP30ウイルスを接種していないサルが全て死亡したのに対して、エボラΔVP30ウイルスを接種したサルは生き残ったという。これは、エボラΔVP30ウイルスの接種によって、エボラウイルスに対する免疫がつくことを示すものだ。
さらに、より安全なエボラウイルスワクチンを開発するため、同研究グループは、エボラΔVP30ウイルスの不活化の方法について、ガンマ線を用いた方法と、過酸化水素水を用いた方法を検討し、エボラΔVP30ウイルスのワクチン効果の評価試験を実施。不活化したエボラΔVP30ウイルスのワクチンを2回接種したサルに、致死量の野生型エボラウイルスを感染させたところ、ワクチン接種をしなかったグループのサルとガンマ線で不活化したエボラウイルスのワクチンを接種したグループのサルは全て死亡した。それに対して、過酸化水素水で不活化したエボラΔVP30ウイルスのワクチンを2回接種したグループのサルは全て生き残り、またエボラ出血熱の臨床症状も示さなかったという。
今後は、少ない回数の免疫でも十分なワクチン効果を発揮できるよう、不活化したエボラΔVP30ウイルスの免疫原性を高める方法を模索するという。また、早期実用化を目指し、人に接種できる安全性基準を満たしたワクチン製造や臨床試験等を進めていく予定としている。
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・東京大学 プレスリリース