ヒト型多能性幹細胞とも呼ばれる重要なモデル細胞
理化学研究所は3月27日、ヒト型の多能性幹細胞に近い性質を持つマウスエピブラスト幹細胞(以下、Epi幹細胞)の樹立効率を飛躍的に高めるとともに、樹立した細胞株を安定に維持する培養技術を開発したと発表した。この成果は、理研バイオリソースセンター疾患ゲノム動態解析技術開発チームの阿部訓也チームリーダー、杉本道彦客員研究員とライデン大学による共同研究グループによるもの。米科学雑誌「Stem Cell Reports」4月14日号に掲載されるのに先立ち、オンライン版に3月26日付で掲載されている。
画像はプレスリリースより
マウスES細胞(胚性幹細胞)は、マウスの着床前胚の多能性細胞から樹立されるが、胚が子宮に着床した後、多能性細胞はエピブラストと呼ばれる細胞へと発達する。Epi幹細胞は、このマウスのエピブラストから樹立した多能性幹細胞だ。
多能性幹細胞には、未分化な「ナイーブ型」と分化が進んだ「プライム型」があり、マウスES細胞がナイーブ型であるのに対し、Epi幹細胞はプライム型である。また、Epi幹細胞は、マウスES細胞よりもヒトES細胞やヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)に性質が近いことからヒト型多能性幹細胞とも呼ばれ、ヒトES細胞やヒトiPS細胞の特徴を知るための重要なモデル細胞と言われている。しかし、Epi幹細胞はその樹立効率が低く、また安定に維持しながら培養することが困難だった。
ヒトES細胞やヒトiPS細胞の樹立効率向上への貢献も期待
今回、共同研究グループは、シグナル分子であるWntタンパク質がナイーブ型多能性幹細胞の未分化性を維持することに着目。Wntタンパク質の発現を阻害することでナイーブ型多能性幹細胞の増殖を抑制し、プライム型のEpi幹細胞の形成を促進できるのではないかと考えた。
そこで、Wntタンパク質の分泌を抑制する低分子化合物を添加してEpi幹細胞の樹立を試みたところ、従来0~20%だった樹立効率が90~100%と大幅にアップしたという。また、通常のEpi幹細胞は、培養中に自発的に分化した細胞が常に混在しており、未分化性を維持したまま培養することが困難だったが、Wntタンパク質の発現の阻害により、分化細胞の出現が抑制され、未分化状態の細胞からなる均質な細胞集団を得ることもできた。さらに、阻害剤添加により樹立したEpi幹細胞は、多様な細胞へと分化する能力である、分化多能性を維持していることも確認したという。
なお、今回樹立した均質な性質を持つ新規Epi幹細胞は、今後、理研バイオリソースセンターから学術機関や企業へ提供される予定としている。
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・理化学研究所 プレスリリース