膵島移植による糖尿病治療の成績向上へ向けて
東北大学は3月20日、糖尿病を対象とする細胞移植治療である膵島移植に有効な新規膵島分離酵素成分を同定し、膵臓からの膵島細胞回収率を飛躍的に向上させる新規酵素カクテルを開発したと発表した。これは、同大未来科学技術共同研究センター(大学院医学系研究科兼務)の後藤昌史教授、同大学院医学系研究科先進外科の大内憲明教授、佐藤(田頭)真実医師、同大大学院医工学研究科の村山和隆准教授、東京農工大学大学院農学研究院の山形洋平教授らの研究グループによる成果。この研究成果は、国際学術誌 「Transplantation」の電子版に3月24日付で掲載されている。
画像はプレスリリースより
現在、膵臓から膵島を分離するためのタンパク質分解酵素には、異なる二種の細菌酵素(コラゲナーゼおよびサーモリシン)のカクテルが世界中で広く使用されているが、低い膵島分離効率が大きな課題であった。これまでの研究により、コラゲナーゼ産生菌由来の他の酵素成分が膵島分離成功の鍵を握る事が指摘されてきたが、その成分は不明のままだった。
クロストリパインの実用化へ向け研究を推進
今回、研究グループは、コラゲナーゼを産生する細菌株であるクロストリジウム菌に多量に 存在するタンパク質分解酵素「クロストリパイン」に着目し、高純度なクロストリパインを作製することに成功。
さらに、同じクロストリジウム菌の中性プロテアーゼ(ChNP)の高純度品も作製し、従来用いられてきたバチルス菌中性プロテアーゼであるサーモリシン(TL)と、膵島分離効率について比較。その結果、新規成分を組み合わせた酵素カクテルを用いて、膵島の分離効率を飛躍的に増加させることができたという。
また、分離した膵島の障害も、新規成分を組み合わせた酵素カクテルで最も低いことが判明。膵島分離の過程で、膵臓がもともと持っているトリプシンやキモトリプシンなどの消化酵素が漏れだし、活性化されると膵島に障害を与え、膵島分離功率を低下させる。そこで、これらの内因性の消化酵素の活性を調べたところ、従来の酵素カクテルを用いた方法では、トリプシンおよびキモトリプシンが強く活性化されていたが、新規酵素カクテルを用いた方法では、トリプシンの活性化は軽度だが、キモトリプシンは従来と同程度まで活性化されていたという。
研究グループは既に、臨床応用可能なクロストリパインの純正品を開発することに成功しているため、今後はその実用化へ向け、研究を推進していくとしている。
▼外部リンク
・東北大学 プレスリリース