AMEDが参考にした米NIHのローレンス・タバック首席副所長は、米国の医療研究予算が2004年以降0・8%増と伸び悩んでおり、年間300億ドル(約3兆6000億円)の莫大な予算の有効活用が求められていると指摘した。
NIH予算の6割以上は研究者主導研究に投資されているが、厳格な審査により採択は申請の2割以下となっている現状を示した。優先順位の決定に当たり、市民や患者団体、連邦議会、専門家組織など、あらゆる意見を取り入れている方針も説明した。
その上で、新たにビッグデータ、個別化医療への取り組みを開始していることを紹介。NIHが注目し、将来的な取り組みを見据える分野の一端を示した。
英政府のサリー・デイビス主席医務官は、臨床研究者数の大幅な減少を受け、2006年に国立衛生研究所(NIHR)を設立し、インフラとしての臨床研究ネットワークをはじめ、健康研究システムの構築に乗り出した取り組みを紹介。NIHRバイオメディカル研究センターに過去5年で8億5000万ポンド(約1522億円)を投じてきたことを示した。
シンガポール国家医療研究協議会のランガ・クリシュナン議長も、15年までにGDP比で研究開発費の総額を3・5%まで伸ばす計画を披露。各国で医療研究に大規模な投資が行われている現状が示された。
一方、日本でも4月から医療研究の司令塔を目指すAMEDがスタートする。末松氏は、08年に米NIHが開始した「未診断患者プロジェクト」を参考に、診断がつかない疾患や難病に焦点を当てていく方針を強調。「今までにない国の研究費の提供方法として、専門医を巻き込んでいく使い方ができないか模索していきたい」と語った。
京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長は、iPS細胞の創薬応用の重要性を強調。小人症の原因の一つである軟骨無形成症に対して、iPS細胞から疾患モデルを作り、既存のコレステロール低下薬で効果が得られた成果を紹介した。
その上で、「診断がつかない患者さんは大勢いる」と指摘。末松氏が意欲を示す未診断患者プロジェクトについて、国際協力の輪に参加できるとの認識を示した。山中氏は、自ら参加する米国のプロジェクトで遺伝子検査の結果を公開し、原因を突き止めた事例を紹介。「インターネットという手段で枠組みもなく、すぐに国際協力ができる。世界の研究者の協力は一気に広がるだろう」との考えを述べた。
ただ、論文になっていない情報を公開した場合、研究者の評価につながらない点を指摘。AMEDに対し「論文とは別枠で、医学・医療にどう貢献していくかという評価法も考えてもらいたい」と要望した。
また山中氏は、iPS細胞開発のカギに、37歳の若さで奈良先端科学技術大学院大学の主任研究者として独立したこと、41歳で科学技術振興機構(JST)から年間5000万円の研究費を5年間にわたって獲得したことを挙げた。若手研究者への十分な立場、研究費がノーベル賞という大きな成果につながったといえ、米NIHのタバック氏は「大事な視点だ。われわれも、そういう方法で研究資金を配分していきたい」と同調した。
討論を踏まえ、末松氏は「課題解決のためには、世界の医療研究開発機構の協力が不可欠」と、改めて国際連携の必要性を訴えた。