ウイルス性肝炎、敗血症などの新規治療法の早期実現化に期待
東京大学とサノフィ株式会社は3月10日、炎症性疾患およびがん領域における2件の新規治療薬に関する共同研究契約を締結したことを発表した。この契約により、東京大学が医薬品開発において基礎研究から臨床開発段階へ進めるために必要な基礎データの構築を、サノフィの協力のもと加速させることで、炎症性疾患およびがん領域における日本発の新たな分子標的薬の創出が期待できるとしている。
1つ目の研究で標的とするのは、炎症性疾患の免疫制御分子。同大生産技術研究所 炎症・免疫制御学社会連携研究部門の谷口維紹特任教授との共同研究となる。
谷口特任教授はこれまでの研究により、特定の配列をもつ核酸化合物が、炎症性疾患の免疫制御分子と結合することにより、その分子の免疫反応促進作用を阻害することを明らかにしている。サノフィとの共同研究において、さまざまな炎症性疾患モデルで、この核酸化合物の有効性を確認し、さらに有効な核酸化合物の創出を行うことにより、ウイルス性肝炎、敗血症、SLE(全身性エリテマトーデス)、虚血再灌流傷害、熱中症、特発性肺線維症、悪性腫瘍など、有効な治療薬のない疾患患者への新規治療法の早期実現化を期待すると谷口教授は述べている。
肝臓がんを中心に新たな分子標的薬の開発を模索
2つ目の研究で標的とするのは、肝臓がんおよびその他のがんの免疫制御分子。同大医科学研究所 外科・臓器細胞工学分野の田原秀晃教授との共同研究となる。
田原教授はこれまでの研究から、腫瘍細胞に対する局所の免疫反応を抑制する免疫制御分子の機能を、この分子の抗体を用いて阻害することにより、がん患者における細胞自律性機能と免疫制御機能を調整することが可能となり、これにより既存治療法の抗腫瘍効果を大きく向上させることができる可能性があるとしている。
今回の共同研究では、肝臓がんを中心としたヒトのがん病態とこの腫瘍細胞に対する免疫反応を抑制する分子の発現との関連を精査。この分子の抗腫瘍効果を、肝臓病をはじめとする疾患モデルで確認したうえで、さらなる有効性をもつ新たな分子標的薬の開発を模索し、有効な治療薬のないがん種への新規治療法が提供できると期待を寄せている。
▼外部リンク
・東京大学生産技術研究所 プレスリリース