今後の医療の未来に希望を抱かせる各氏のプレゼンテーションは、会場を高揚感で包み込んだ。中でも、5年前のプログラム開始当初からプログラムの中心的人物であった円城寺雄介氏(佐賀県統括本部情報・業務改革課 主査、 総務省 ICT 地域マネージャー)と杉本真樹氏(神戸大学大学院医学研究科 内科学講座消化器内科学分野 特命講師)の講演は、技術論ではなく、イノベーションを起こすために根本的に必要なことを語ることで、参加者にもイノベーションを起こすようコミットを求めるものとなった。最後にこの2人の講演の採録をお届けする。
パッションこそが人を動かす/円城寺氏
佐賀県統括本部情報・業務改革課 主査/
総務省 ICT 地域マネージャー 円城寺雄介氏
佐賀県の救急医療現場を大きく変革させた円城寺氏は、その取り組みを始めたきっかけは現場だったと話した。救急車の中で、受け入れを何度断られても必死に病院を探し続ける救急隊員の姿。その姿を見てしまったら、もうやるしかないと思ったという。
当初県庁の上司や仲間に受け入れてもらえず孤立したこともあったが、「現場の彼らに恥ずかしい仕事だけはしたくない」というその思いが自分を突き動かしたのだと振り返った。その時、氏の胸にあったのは『草莽崛起(そうもうくっき)』、在野の人よ、立ち上がれという吉田松陰の言葉だ。まずは自分が一歩を踏み出すこと。何の権限もない「平職員」だった彼が行動し、佐賀県の救急医療を変えていけたきっかけは、ひとえにこの思い、パッションゆえなのだ。
求められるのは「最適化」ではなく「破壊する」イノベーション/杉本氏
神戸大学大学院医学研究科 内科学講座消化器内科学分野
特命講師 杉本真樹氏
今フォーラムのコーディネータである杉本氏は、医療の研究開発には、実現させるまでに乗り越えなければならない3つの課題があると提示した。「魔の河、死の谷、ダーウィンの海」である。
前者2つは、研究開発を進めるにあたって必ず必要な資金、次に特許化を指すが、多くの大学や研究施設ではこの2つの部分で魔の河や死の谷にはまってしまう。逆に企業や産業から見れば、一番最後の「ダーウィンの海」の広さ(=困難さ)は分かるが、その前段階の事情をまったく知らず、両者がなかなか連携できないという大きな課題があるとした。そしてその解決策のひとつが、今回のようなプロジェクトだ、と語った。
そして氏は、イノベーションそのものの「質」についても踏み込んでこう提唱した。医療においては、組織やプロセスを時には破壊することも必要であり、それ以上のものを作ればその破壊には価値がある。今求められているのは、まさにこの破壊的イノベーション。具体論を言えば、ICTに触感やぬくもりや愛などの付加価値をつける、そういった技術論に留まらないものこそが大きな問題を解決できると確信している、と杉本氏は語った。
神戸医療イノベーションフォーラム2015レポート
- 臨床と研究の最前線から生まれたプラクティスとは
- 医療ICTの最新事例報告(前編・国内編)
- 医療ICTの最新事例報告(後編・海外編)
- イノベーションを起こす核は何か、そして本当に求められるイノベーションとは