高齢者に多い変形性関節症の根治療法開発に向け
東京大学は3月5日、変形性関節症の発症・進行に関わる分子として新たに「Hes1」と呼ばれるタンパク質をマウスにおいて同定し、その病態制御メカニズムを解明したと発表した。
画像はプレスリリースより
この研究は、同大医学部附属病院の骨・軟骨再生医療講座の齋藤琢特任准教授と、同大大学院医学系研究科/医学部附属病院整形外科・脊椎外科の田中栄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要」(Proc Natl Acad Sci:PNAS)にて発表された。
変形性関節症は高齢者の運動機能を脅かす代表的な疾患であり、膝関節だけで国内に2530万人の患者がいると推定される。しかし、根治療法は未だ開発されていない。同大大学院医学系研究科/医学部附属病院の整形外科と、同医学部附属病院骨・軟骨再生医療講座、同疾患生命工学センターの合同研究チームは、これまでにNotchシグナルが変形性関節症を強く制御することをマウスの実験によって発見し、報告していた。しかし、Notchシグナルが伝達していく際の詳しい分子機構は解明できていなかった。
さまざまなタンパク分解酵素や炎症性分子を誘導
今回、研究チームは、軟骨細胞におけるNotchシグナルが伝達していく際の分子の発現を調べ、豊富に発現している「Hes1」タンパク質という転写因子に注目。成長後に軟骨細胞でのみHes1を働かなくなるマウスを作成し、変形性関節症モデルを作成したところ、変形性関節症の進行が著明に抑制されたという。さらに、遺伝子改変マウスや次世代シーケンサーによる転写解析などを駆使してHes1が誘導する遺伝子を探索したところ、さまざまなタンパク分解酵素や炎症性分子を誘導する機構も明らかになった。
今回の研究により、Notch・Hes1の一連のシグナルによる変形性関節症の制御機構が判明したことで、将来の治療標的となりうる候補分子が複数得られたことになる。これらは神経系など多くの組織・臓器の構築に重要な役割を果たすことから、生物学の幅広い分野でも役立つことが期待される。
▼外部リンク
・東京大学医学部付属病院 プレスリリース