医療従事者が健全であることで、患者も守られる
医療環境は他の環境に比べて感染症の伝播リスクがきわめて高く、そのリスクは患者だけでなく医療従事者にも及ぶ。いまだ感染が広がるエボラ出血熱の現場では、医療従事者への感染が多数報告されている。一方、過去にはB型肝炎(HBV)・C型肝炎(HCV)が医療従事者から患者へ感染し、問題となったケースも。医療環境では感染症の伝播リスクが双方向であり、患者の安全確保だけでなく、医療従事者の安全確保も重要となる。
バージニア大学医療システム学部
内科学教授 ジェニーン・ジェーガー氏
2月17日、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社が感染症対策セミナーを開催。針刺し損傷および血液・体液曝露予防のための情報収集・解析システムEPINet™(Exposure Prevention Information Network)の開発者であるバージニア大学教授のジェニーン・ジェーガ-氏と東北大学大学院教授の賀来満夫氏が、医療従事者の感染症対策について講演した。
登壇したジェーガ-氏は、針刺し損傷および血液・体液曝露を追跡調査するためのシステム、EPINetの開発者。2015年現在、EPINetを使ったサーベランスシステムは、25か国で利用され、医療従事者の針刺し損傷、血液・体液曝露の予防対策に活用されている。
ジェーガー氏は、自身が尽力した「針刺し安全防止法」を紹介。連邦法として制定された2000年以降、安全機構付きの注射器や採血針、静脈留置カテーテルといった安全器材の市場シェアが拡大しており、実際に針刺し発生件数は着実に減少したという。ジェーガー氏は、「曝露予防は、既知・未知を問わず、すべての病原体の伝播(感染)を予防する万能ワクチンのようなもので、不可欠だ」としたうえで、「エボラやHIV、HBV、HCVといったヒト病原体と最前線で戦う医療従事者を守っていかなければならない。医療従事者が健全であることで、私たちも恩恵を受けられる」と語った。
自身の安全確保意識が薄い日本人医療従事者
東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座
感染制御・検査診断学分野教授 賀来満夫氏
続いて登壇した賀来氏は、医療環境の微生物伝播リスクの高さと、日本における感染症対策について語った。現在日本での針刺し損傷は年間45~60万件と推測されており、医療従事者の2人に1人が針刺し損傷を経験している可能性があるという。また、職業感染制御研究会の報告によると、C型肝炎の新規発生は減少傾向にあるが、その3分の1は針刺し損傷や透析、医療上の検査・処置など、医療行為に関するものであるという。
「医療環境は最も感染症の伝播リスクが高いが、日本人の医療従事者は自分を守ることに引け目を感じていることが多く、自分自身の安全確保意識がとても薄い。感染症は患者と医療従事者の共通リスク。医療従事者の安全確保は患者を守ることにもつながるため、自身に対する意識も強く持って欲しい」と賀来氏は訴えた。さらに、「針刺しなどの職業感染は、予測ができない事故(Accident)ではなく、予測可能で予防可能な事故(Injury)であるということを提唱し、予防対策に取り組んでいかなければならない」と語った。
▼外部リンク
・日本ベクトン・ディッキンソン株式会社
・BD 針刺し損傷防止 Needle Stick Injury Prevention
・職業感染制御研究会