腫瘍を形成せずに、関節軟骨の欠損を補うことを確認
京都大学は2月27日、同大学iPS細胞研究所(CiRA)の妻木範行教授、山下晃弘研究員らの研究グループが、医学研究科の松田秀一教授らのグループと共同で、ヒトiPS細胞から軟骨細胞を誘導し、さらに硝子軟骨の組織を作製し、マウス、ラット、ミニブタへの移植により、その安全性と品質についての確認を行うことに成功したと発表した。
画像はプレスリリースより
正常な関節軟骨は硝子軟骨と呼ばれるが、加齢に伴ってすり減ったり、スポーツや交通事故などの怪我により損傷をうけたりすると、硝子軟骨が線維軟骨に変性してしまうことがある。一度、軟骨が線維化すると元に戻ることはなく、関節をスムーズに動かすことが難しくなり、痛みや炎症が起こることもある。
その治療法のひとつに、軟骨細胞を損傷部に移植する自家軟骨細胞移植術があるが、高品質で十分な量の軟骨細胞を用意することが難しく、また、移植するためには、自己の健康な軟骨細胞を生検にて採取し、数を増やす必要があるが、軟骨細胞は培養して増やすと線維芽細胞様に変質してしまう。それを移植すると修復組織に線維軟骨が出来てしまい、きれいな硝子軟骨で治りにくいという問題もあった。
関節軟骨損傷の再生治療法開発へ前進
これまでに、ヒトiPS細胞から軟骨細胞を分化誘導する方法については、いくつも報告されているが、硝子軟骨は作られておらず、移植後の腫瘍形成リスクも調べられていなかった。そこで同研究グループは、ヒトiPS細胞から分化誘導した軟骨細胞に生体内で純粋な硝子軟骨を作る能力があること、生体内の軟骨欠損に移植した組織が欠損部を支えること、動物に移植した時に腫瘍を作らないことの確認を目標に研究を進めたという。
その結果、ヒトiPS細胞から軟骨細胞を作製するための培養条件を検討した上で、そこから足場剤を使わずに細胞自身が作るマトリックスからできた硝子軟骨組織を作製することに成功。また、この軟骨組織を免疫不全マウスへ移植して3か月間、腫瘍形成や転移が見られないこと、つまり移植細胞の安全性を確認した。さらに、免疫不全ラットの関節に移植することで、安全性に加え、隣接する生体内の軟骨と融合することを検証。免疫抑制剤を投与したミニブタの関節で1か月にわたり生着し続けることを確認したという。
これらの結果について、研究グループはiPS細胞を用いた関節軟骨損傷の治療法開発へ向けた研究の重要な一歩であると述べている。今後は、ヒトに使えるグレードの高い安全な試薬を用い、臨床用の細胞調整室で行っても硝子軟骨を誘導できるような分化方法の微調整や、動物実験等を通して、安全性と有効性の確認を十分に行う必要があるとしている。
▼外部リンク
・京都大学 研究成果