副作用の少ない抗がん免疫ワクチンへの適用に期待
北海道大学は2月24日、過剰な炎症性サイトカインを誘導せず、がんを退縮させる新規核酸免疫アジュバントの化学合成と開発に成功したと発表した。これは、同大大学院医学研究科の瀬谷司特任教授、松本美佐子特任准教授らの研究グループによる研究成果である。
画像はプレスリリースより
微生物成分を認識する Toll-like receptor(TLR)の活性化は、樹状細胞に自然免疫応答を引き起こし、サイトカイン産生や細胞性免疫の活性化を誘導する。従来、ウイルス2重鎖 RNA(polyI:CなどのTLR3リガンド)は強い抗がん効果を示し、ワクチンアジュバントとして有望視されてきたが、炎症、サイトカイン血症などの副作用のため、臨床適用が断念されていた。
過剰な炎症性サイトカイン産生を誘導しない新規核酸アジュバント
研究グループは、50種類以上のRNA誘導体をデザインしてインビトロ合成し、TLR3を活性化しRNAセンサー(RIG-I/MDA5)を活性化しない誘導体をヒトおよびマウス細胞を用いてスクリーニング。選択した1種類のTLR3だけを活性化する誘導体を再現的に完全化学合成し、溶液中での安定性、TLR3活性化能、サイトカイン産生を検討した。
さらに、マウス移植がんモデルを使って、がん退縮、NK/CTL依存的抗がん活性、抗原特異的CTL誘導活性を検討。新規リガンドがTLR3だけを標的とすることは、野生型および TLR3、TICAM-1欠損マウスを用いて検証したという。
新規TLR3リガンドは、フォスフォロチオエート型GpCオリゴデオキシヌクレオチド(sODN)と140merの二重鎖RNAのキメラ分子(ARNAX)。ARNAX は、細胞外から効率よくエンドソームに送達されTLR3を活性化するが、RIG-I/MDA5は活性化しないことが、ヒトおよびマウス細胞で明らかになったという。ARNAX をマウスの腹腔内に投与した場合、IFN-βやTNF-α、IL-6などの炎症性サイトカイン産生はほとんど誘導されない。一方、皮下投与では所属リンパ節でわずかのIFN-β、IL-6、IL-12産生が誘導される。また、マウス移植がんモデルでは、ARNAXはpolyI:C同等のNK/CTL 依存的がん退縮を誘導し、その活性はTLR3-TICAM-1依存的であることが、ノックアウトマウスでの解析から判明。更にがんを移植していないマウスにおいて、ARNAXは抗原特異的CTLの増殖と活性化を TLR3-TICAM-1を介して誘導することが明らかになった。これらの結果から、ARNAX は過剰な炎症性サイトカイン産生を誘導せず、NK/CTL などの細胞性免疫応答を誘導する非炎症性核酸免疫アジュバントであると機能定義されるとしている。
このような非炎症性のアジュバントであれば高齢者に非侵襲で、高いQOL、簡便、負担の少ないがん治療を提供しうるとし、副作用の少ない非炎症性の核酸免疫アジュバントとして抗がん免疫ワクチンへの適用ができると、研究グループは期待を寄せている。
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・北海道大学 プレスリリース