ANPが様々な種類のがんの転移を予防・抑制できることが明らかに
国立循環器病研究センターは2月24日、同研究所・生化学部ペプチド創薬研究室の野尻崇室長、組織再生研究室の細田洋司室長、情報伝達研究室の徳留健室長、寒川賢治研究所長らの研究グループが、大阪大学呼吸器外科の奥村明之進教授らとの共同研究で、心臓から分泌されるホルモンである心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)が、血管を保護することによって、さまざまな種類のがんの転移を予防・抑制できること、そしてその詳細なメカニズムを明らかにしたと発表した。
画像はプレスリリースより
ANPは、1984年に寒川研究所長、松尾壽之名誉所長らによって発見された心臓ホルモンで、現在は心不全に対する治療薬として使用されている。これまでに肺がん手術の際、術中より3日間ANPを低用量持続投与することによって術後不整脈の発生を有意に抑制できること、さらには高齢者や閉塞性肺疾患を合併する肺がん患者では、様々な心肺合併症を予防できることを報告していた。
今回の研究は、上記の追跡調査を行った結果、本来は合併症予防の為に投与されたANP群(手術+ANP群)は、手術単独群(対照群)と比較して術後2年無再発生存率が良好な成績であったことが示されたという。そこで研究グループは、肺がん手術時にANPを投与することによって、なぜ術後再発・転移が減少したのかを明らかにするため、マウス実験や遺伝子解析などを実施した。
血管E-セレクチンの発現をANPが抑制
がん手術時に血中に放出される遊離がん細胞は、その多くが1~2日間以内に細胞死を迎え、消退するが、手術時の炎症によって惹起された血管E-セレクチンの発現亢進により、生き残った遊離がん細胞の一部が血管へ接着・浸潤することがあり、術後早期再発・転移の一因となっている。
今回の研究では、炎症によって惹起される血管のE-セレクチンの発現を、ANPが抑制していることが明らかになった。これにより遊離がん細胞が血管へ接着することを防ぎ、結果的に術後再発・転移を抑制していることが示唆されたという。
この研究成果を受け、研究グループは肺がん手術(500症例)を対象とした全国規模での多施設臨床研究(JANP study;国循が主導)を開始する予定。同試験は、国家戦略特区における保険外併用療養の特例(先進医療B)を活用した全国初の案件となる。
なお、今回の研究の成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版に2月24日以降1週間以内に掲載予定としている。
▼外部リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース