不必要な投薬を回避するべく、治療効果や副作用を予測
国立がん研究センターは2月23日、切除不能進行・再発大腸がんにおける、抗EGFR抗体薬の新たなコンパニオン診断薬の開発に成功したと発表した。この研究は、早期・探索臨床研究センターの大津敦センター長、土原一哉トランスレーショナルリサーチ分野長、東病院の吉野孝之消化管内科長を中心とする多施設共同研究グループと、G&Gサイエンス株式会社によるもの。
画像はプレスリリースより
近年、患者の生理学的・病理学的特性を考慮し、最適な医療を提供する「個別化医療」の重要性が認識されている。がんの分子標的治療においても、治療薬を投与する前に、治療効果や副作用を予測する各種バイオマーカーにより、適切な患者を選択することで、治療効果の最大化と副作用の最小化が期待されている。
大腸がんにおいても、一般的に使用されている抗EGFR抗体薬が無効な複数のRAS遺伝子変異が報告されていた。薬物療法専門医の間では、「RAS遺伝子変異のある大腸がん患者には抗EGFR抗体薬を投与すべきでない」ことが共通認識となっていたものの、日常臨床でこれらのRAS遺伝子変異を測定できる体外診断薬はなかったという。
複数のRAS遺伝子変異を同時に検出可能な体外診断用医薬品
今回の診断薬は、複数のRAS遺伝子(KRAS遺伝子エクソン2、3、4領域およびNRAS遺伝子エクソン2、3、4領域)の変異を同時に検出できる体外診断用医薬品である。
研究グループは、抗EGFR抗体薬の投与を受けた大腸がん患者の臨床検体を収集して網羅的ゲノム解析を行い、KRAS遺伝子エクソン2領域の変異以外の新たなバイオマーカーの探索・同定を試みた。その結果、海外での報告と同様、KRAS遺伝子エクソン2領域以外のRAS遺伝子変異を有する大腸がんにおいても抗EGFR抗体薬が無効であることを確認。この研究成果をもとに、G&GサイエンスがこれらのRAS遺伝子変異を同時検出できる体外診断薬の開発に着手し、従来の遺伝子検査法と高い相関を示す診断キット「MEBGEN(TM)(メブジェン) RASKET(ラスケット)キット」の開発に成功したという。
同診断薬は、G&Gサイエンスの親会社である医学生物学研究所(MBL)により製品化されている。2014年6月には欧州での販売に必要なCEマークを世界に先駆けて登録、1月27日付で日本国内の製造販売承認を取得していた。
同キットの登場により、従来の検査では調べられなかったRAS遺伝子変異型の患者に対しても適切な治療を選択することが可能となった。今後、一人ひとりのがんの遺伝子の状態に合わせた、より高い精度での個別化治療の実現が期待される。
▼外部リンク
・国立がん研究センター プレスリリース