国民の約3割が罹患しているといわれるアレルギー疾患
千葉大学は2月16日、サイトカインIL-33が病原性記憶2型ヘルパーT(Th2)細胞を誘導し、アレルギー性気道炎症を慢性化させる分子機構を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の遠藤裕介特任講師、中山俊憲教授らの研究グループによるもので、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業において行われた。研究成果は、米国科学誌「Immunity」オンライン版に2月17日付けで掲載されている。
画像はプレスリリースより
ぜんそく、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患は世界的に増加の一途をたどり、日本では国民の約3割が罹患しているといわれている。しかし、従来のアレルギー疾患に対する治療法は対症療法しかなく、根治療法は開発されていなかった。そのため、発症すると慢性化することが多く、患者の肉体的、精神的、経済的負担が大きいことから、解決すべき課題のひとつとされている。
これまで、ぜんそくをはじめとしたアレルギー疾患は、Th1細胞とTh2細胞のバランスが崩れることが病態形成の引き金となる(Th1/Th2アンバランスモデル)と考えられてきた。しかし、研究グループは、記憶Th細胞中の病原性を持った集団によりアレルギー疾患の病態が慢性化する(病原性記憶Th細胞亜集団疾患モデル)という新たなコンセプトを提唱していた。
サイトカインIL-33が病原性記憶Th2細胞を誘導
今回、研究グループは、炎症性サイトカインIL-33の受容体であるIL-33Rが病原性記憶Th2細胞に強く発現しているという実験結果を基に、IL-33が病原性記憶Th2細胞の機能獲得に影響している可能性を考慮し、IL-33欠損マウス、IL-33R欠損マウスを用いて研究を行った。
その結果、IL-33は予想通り、アレルギー疾患の病原性の指標であるIL-5の産生を記憶Th2細胞特異的に誘導することが分かったという。また、IL-33-IL-33R下流シグナルのどの経路が病原性記憶Th2細胞の誘導に必須であるか解析したところ、p38シグナルが病原性記憶Th2細胞への機能転換に必須の経路であることが示唆された。
ぜんそくの重症度については、IL-33R欠損群ではこれらのアレルギー性炎症反応が有意に抑制されることが判明。病原性記憶Th2細胞によるアレルギー疾患病態に対する抑制効果が認められたという。
さらに、慢性副鼻腔炎患者検体を用いることで、ヒトでもIL-33に誘導された病原性記憶Th2細胞により、アレルギー疾患の病態慢性化機構が引き起こされることを解明したとしている。
今回の研究成果によって、病原性を誘導するp38を創薬ターゲットとすることで、慢性アレルギー疾患治療薬の開発に新たな可能性がもたらされた。特に抗炎症薬では、種々の炎症性サイトカインなどのタンパク質の産生を抑制しているが、創薬ターゲットが広がったことで、従来対処が難しかったステロイド抵抗性の難治性慢性アレルギー疾患の治療開発が期待される。
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・千葉大学 プレスリリース