仏キュリー研究所らとの共同研究により
金沢大学は2月16日、モデルマウスを用いた遺伝学的解析により、慢性炎症反応が誘導する大腸がん悪性化の仕組みについて明らかにしたと発表した。
画像はプレスリリースより
この研究は、同大がん進展制御研究所の大島正伸教授を代表とし、佐藤博教授、京都大学の武藤誠教授、フランスのキュリー研究所のシルビー・ロビン教授、東京医科歯科大学の土屋輝一郎准教授、慶應義塾大学の佐藤俊朗准教授と共同で行われたもの。科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業の一環として行われた。
この研究成果は、2月16日発行の米国癌学会学術雑誌「Cancer Research」に掲載され、同誌オンライン速報版でも公開されている。
特定の遺伝子変異と慢性炎症の相互作用により誘導
研究グループは、浸潤性大腸がんの発生と悪性化に関与するApc遺伝子およびTGF-β受容体遺伝子(Tgfbr2遺伝子)を同時に腸管上皮細胞で欠損するモデルマウスを作成。このモデルマウスを解析し、浸潤がん組織で炎症反応が強く誘導されていることに着目した。そして、がん抑制経路であるTGF−βシグナルを抑制したマウスに潰瘍性大腸炎を誘発することで浸潤性大腸がんが発生することを観察。がんの悪性化進展は、特定の遺伝子変異(今回の研究ではTgfbr2)と慢性炎症の相互作用により誘導されることを世界で初めて明らかにしたという。
さらに、炎症反応で腸粘膜に浸潤したマクロファージが蛋白分解酵素mt1−MMPを産生し、それががん細胞の浸潤誘導に重要な役割を果たしていることも判明。潰瘍性大腸炎患者に発生した浸潤性大腸がん組織では、実際にTGF−βシグナルの抑制が認められ、慢性炎症とTGF−βシグナル抑制がヒトの浸潤性大腸がん発生の原因となっていると考えられるとしている。
これらの遺伝子変異が、どのようにがん細胞の悪性化を引き起こしているのかは未だ不明な部分が多い。しかしながら、この研究成果は、それぞれの悪性化過程にも遺伝子変異だけではなく慢性炎症反応が重要に関わっている可能性があることを示唆している。今後、慢性炎症によるがんの転移・再発の誘導の仕組みが明らかになれば、慢性炎症の制御によってがんの悪性化進展の予防・治療ができ、新規予防・治療法開発への貢献が期待されると研究グループは述べている。
▼外部リンク
・科学技術振興機構 プレスリリース