ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞移植後、神経系腫瘍を形成
慶應義塾大学は2月13日、ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞移植後の腫瘍化メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大医学部生理学教室の岡野栄之教授と同整形外科学教室の中村雅也教授が、科学技術振興機構の再生医療実現拠点ネットワークプログラムにおいて行ったもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」オンライン版に2月12日付けで公開されている。
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研究グループは、以前から脊髄損傷を再生させる治療法の開発に取り組んでいた。しかし、中絶胎児組織を用いての臨床だったため、倫理的な問題から応用が難しかった。こうした中、2006年に京都大学の山中伸弥教授らによりiPS細胞が開発され、慶応大学は京大と共同研究チームを組み、2011年にマウス脊髄損傷に対するヒトiPS細胞由来の神経幹細胞移植の有効性を確認した。しかし、使用するiPS細胞株によっては、移植後に一時的に運動機能が改善するものの、 長期経過観察後に神経系腫瘍を形成してしまうことが分かっていたという。
活性化の危険性がないiPS細胞を用いることが重要
研究グループは、独自の培養方法を用いてヒトiPS 細胞(253G1 クローン)から神経幹細胞を分化誘導し、免疫不全マウス脊髄損傷モデルに移植を行った。移植後約2か月のマウス脊髄内で、ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞は生着し、神経系3系統細胞へと分化したという。さらに、3種類の運動機能評価法で検討したところ、すべての評価法で移植群は良好な運動機能の改善を認めたという。
次に、移植後約4か月まで長期に経過観察を行い、移植細胞の安全性を評価。その結果、一度回復した運動機能は徐々に悪化することが分かった。運動機能悪化の原因解明のため組織学的に解析したところ、Nestinというマーカー陽性の神経系の腫瘍が形成されていた。
この腫瘍化の原因を調べたところ、iPS細胞作製時に導入したOCT4遺伝子の活性化を認め、これが腫瘍形成に関与している可能性が示唆されたという。次に、腫瘍化のメカニズムを解明するため、次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子解析を行った結果、上皮間葉転換が腫瘍の浸潤に関与していることが判明した。
今回の結果によって、臨床応用に向けたヒトiPS細胞由来の神経幹細胞移植の安全性確保のため、ゲノム挿入のないintegration-free iPS 細胞を用いることが重要であることが分かった。研究グループはプレスリリースで、移植細胞の安全性、特に造腫瘍性に関するス クリーニング法を構築していく必要があると述べている。
▼外部リンク
・慶應義塾大学 プレスリリース